bororo(ボロロ) デザイナー赤地明子 ロングインタビュー -後編

世界各地の鉱山や産地を巡り、自ら選んだ天然石を一石ごとの個性を活かしたジュエリーに仕立てるbororo。前編では、デザイナー・赤地明子さんの原体験や、ニューヨークでの学び、“旅する宝石商”として石と向き合う現在のスタイルについて伺いました。

後編では、いよいよbororoというブランドそのものについて深掘りしていきます。

なぜ“石そのものを扱う”ことから、“ジュエリーとして届ける”ことを選んだのか。そして、なぜ今もなお一点物にこだわり続けるのか。ジュエリー観から5月にオープンした旗艦店についても含め、赤地さんが考える“石と人との関係”についてお話を伺っています。


「自分が本当に身につけたいもの」を探した先に生まれたbororo

現在では、石好きから高い支持を集めるbororoですが、その始まりは、“ブランドを立ち上げたい”というよりも、もっと個人的な感覚からスタートしています。

JEWELRY JOURNAL(以下JJ):

石そのものを扱う宝石商として活動していた赤地さんが、なぜ自身のブランドを立ち上げることになったのでしょうか?

赤地明子氏(以下赤地):

当初は宝石商として、石そのものをジュエリーデザイナーの方やセレクトショップへ卸していました。日々たくさんの石を見て、触れていく中で、次第に「この石の魅力を、もっと自然な形で身につけられるジュエリーがあったらいいのに」と思うようになったんです。

もちろん世の中には素敵なジュエリーがたくさんありました。でも、自分が本当に毎日身につけたいと思えるもの、自分の感覚にしっくりくるものが、なかなか見つからなかったんです。

石そのものの存在感がちゃんとありながら、過剰に装飾されていなくて、身体に自然と馴染んでいくようなもの。探しているうちに、「それなら、自分で最初から作ってみよう」と思ったのが、ジュエリーブランドとしてのbororoの始まりでした。

JJ:
石そのものを見つめていた頃から、“身につけられるもの”としてジュエリーを考えるようになったことで、赤地さんご自身の中でも、石との向き合い方や見え方には変化があったのでしょうか?

赤地:
石そのものを扱っていた頃と、ジュエリーとして提案するようになってからとでは、石の見え方も大きく変わった気がします。

以前は、石単体の美しさに意識が向いていました。でも今は、それだけではなく、「その石が、どのように身体に寄り添うのか」という視点で見るようになりました。例えば、肌の上に置かれたときの重さやバランス、光の映り方、地金との距離感、動いたときの見え方まで含めて考えるようになったんです。

今では石は、ただ美しいだけではなく、身につけられて初めて見えてくる表情があると感じています。だからこそbororoでは、石を“飾る”というより、その石がいちばん自然に存在できる形を探している感覚に近いのかもしれません。

JJ:
「bororo」というブランド名もとても印象的ですが、どのような背景から生まれた名前なのでしょうか?

赤地:
宝石の学校を卒業した後、約2年半かけて世界一周をしながら、各地の宝石の産地を巡る旅をしました。

その旅では、宝石の産地を巡るだけでなく、各地で暮らす人々の文化や装いにも関心を持ち、現地を訪ねていました。その中で最も印象に残ったのが、サハラ砂漠を旅しているときに出会ったボロロ族でした。とても美意識の高い民族で、その感覚や佇まいに強く惹かれました。「bororo」という名前は、そこからいただきました。

音の響きにも惹かれましたし、「o」がたくさん並ぶ感じが、どこか石ころのようにも見えて、いいなと思ったんです。


「一石ごとに仕立てる」ということ

bororoのジュエリーには、まったく同じ表情のものが存在しません。
それは単に“希少性”を重視しているからではなく、石そのものが持つ個性に向き合った結果でもあります。

形、色、内包物、重心、光の透け方——。一石ごとに異なる表情を持つ天然石に対し、赤地さんは「石に合わせて仕立てる」という感覚を何より大切にしているといいます。

JJ:
bororoのジュエリーは、一点物であること自体がブランドの思想として強く感じられます。石ごとに異なる個性を、どのようにジュエリーへ落とし込んでいるのでしょうか?

赤地:
bororoのジュエリーを一点物中心で続けているのは、やはり石が一つひとつまったく違う存在だからです。同じ種類の石でも、形や色、内包物、表情まで、本当に全て違います。だからこそ、「この石にはどんな形が自然なのか」を、その都度考えながら仕立てたいという気持ちがあります。

石を見ながら、その石に合う重心や余白を探していく感覚に近いかもしれません。

職人さんとの関係も、私にとっては欠かせないものです。私一人の感覚だけでは成立せず、石への理解や高い技術を持った職人の方々と細かな感覚を共有しながら、試行錯誤を重ねて形にしています。

石によっては、ほんの少しのタッチで見え方がまったく違ってしまうこともあります。そうした繊細な部分まで感覚を共有しながら形にしてくださる職人の存在は、bororoのジュエリーにとって欠かせないものです。

ジュエリーとして成立させるためには、佇まいの美しさだけではなく、強度や着け心地も必要です。その制約の中で、「石の魅力を損なわないために、何を残して、何を消すか」。どこまで自然に石を主役として存在させられるかを、いつも考えています。

たぶん私は、“デザインを加える”というより、石がいちばん自然に見える状態を探しているのだと思います。


ジュエリーは、人との関係の中で完成するもの

石そのものに向き合うことから始まったbororo。しかしブランドを続ける中で、赤地さんの視点は少しずつ「石」だけではなく、「それを身につける人」へと広がっていきました。

ジュエリーは、身につけて初めて生まれる価値があるもの。その考え方は、bororoというブランドのあり方にも静かに息づいています。

JJ:

ブランドを立ち上げられてから、赤地さんご自身の中で、ジュエリーの役割や意味に対する感覚は変化してきましたか?

赤地:

ブランドを立ち上げてから、ジュエリーの役割に対する考え方は少しずつ変わってきました。

以前は、どちらかというと石そのものへの関心のほうが強かったのですが、今は、人が石や地金を身につけるための“かたち”として、ジュエリーを見る感覚が強くなっています。

身につけることで初めて生まれる関係性のようなものを、以前より意識するようになったというか。ジュエリーは、ただ視覚的に美しいだけではなく、身体感覚や気持ちにも静かに作用する存在なんだと感じるようになりました。

自分自身がジュエリーを選ぶときは、やはり石を選ぶときと近い感覚があります。最初から強く主張するものというより、少しずつ自分に馴染んでいくようなものに惹かれます。

JJ:

お話を伺っていると、赤地さんにとってジュエリーは、単純な“装飾”とは少し違う存在のようにも感じます。ファッションとしての楽しさはもちろんありながら、それ以上の感覚も含まれているのでしょうか?

赤地:
もちろん装いの一部としてコーディネートを考えることもありますが、それだけではない存在だと思っています。

ジュエリーは、もともと魔除けや祈りのような意味合いから始まったとも言われていますし、私自身も、大切な商談の日や飛行機に乗るときなどには、どこかお守りのような感覚で身につけています。

多くの方がはっきりと言葉にすることはなくても、ジュエリーに対して、きっとそういう感覚をどこかで持っているのではないかなと思います。


「相棒のように思ってもらえたら」

bororoのジュエリーには、“自分だけの石と出会う”ような感覚があります。一点物だからこそ、同じ石には二度と出会えない。その偶然性も含めて、多くの人がbororoのジュエリーに惹かれているように感じます。

JJ:

実際に、一つの石との出会いをきっかけに、繰り返し足を運ぶファンの方も多いとお伺いしていますが、赤地さんは、そうしたお客様との関係性をどのように感じていらっしゃいますか?

赤地:

一点物を中心としたブランドですが、繰り返し足を運び、異なる石を選んでくださるお客様もいらっしゃいます。「価値があるから」「流行っているから」というより、「この石に惹かれる」という感覚を大切にされているというか。ご自身の感覚で選んでいらっしゃるのだと思います。

同じ種類の石でも、実際には一つひとつまったく異なります。その出会いを一期一会として楽しんでくださっている方が多いのではないでしょうか。

私自身も、石との出会いにはどこか“縁”のようなものがあると感じています。そうした感覚をお客様と共有できることも、とても嬉しいですね。実際に身につけたときには、毎日自然と手が伸びるような存在というか、“相棒”のように感じていただけたら嬉しいです。


旗艦店という、“bororoの世界観を手渡す場所”

2026年5月末、bororo初となる旗艦店が青山にオープンしました。

それは単にジュエリーを並べる場所ではなく、石が採れる土地の空気や旅の記憶、職人との対話まで含めて、bororoというブランドの核となるものを体験できる空間。これまで、“石”を通して世界と向き合ってきた赤地さんが、なぜ今、リアルな空間を持とうと思ったのか。最後に、その背景について伺いました。

JJ:

これまで旅を軸に活動されてきたbororoが、今このタイミングで旗艦店という“場所”を持たれることにも、とても大きな意味を感じます。

なぜ今、空間を持とうと思われたのでしょうか?また、この場所を通して、どんな体験を届けたいと考えていますか?

赤地:

旗艦店という形で空間を持とうと思ったのは、ブランドの世界観に触れられる場所をつくり、それをより深く届けたいと思ったからです。

お客様とお話ししながら、一緒に石を選ぶ時間は、私にとっても大切なひとときです。

最初に目を留めたものとは別の石が、実際に身につけてみると不思議としっくりくることがあります。お話を重ねる中で、ご本人もまだ気づいていなかった好みが見えてくることもあるんです。

だからこそ青山店では、ジュエリーそのものだけではなく、その石がどこで採れたのか、私が旅の中でどんな景色を見てきたのか、職人の方々とどんなふうに形にしているのか——そうした背景も含めてお伝えしたいと考えています。

そうした時間を通して、その方だけの一石をゆっくり見つけていただけることも、実店舗ならではの魅力です。石を実際に見て、身につけ、言葉を交わしながら、ご自身の感覚に響く一点と出会っていただける場所になればと思っています。

ジュエリーそのものに集中できる、構造や動線もシンプルに設計された青山店。石の表情やジュエリーの立体感が自然に見えるよう、什器や照明にもかなりこだわっています。

赤地:

最後になりますが、実は青山店では、“香り”も空間を構成する大切な要素として考えています。

店舗の香りは調香師の沙里さんにお願いしていて、昨年の買い付けで訪れたマダガスカルで手に入れた鉱物や岩石、植物素材、旅の写真や映像を手がかりに、その土地で感じた空気や記憶を香りとして表現していただきました。

お越しになったお客様が一歩足を踏み入れた瞬間に、どこか旅の気配のようなものを感じてもらえたらいいなと思っています。


石を“素材”としてではなく、一つの個性を持った存在として見つめ続けてきた赤地さん。その感覚は、石を選ぶ瞬間だけではなく、ジュエリーとして仕立て、人へ届け、空間として体験してもらうところまで、一貫して静かに流れていました。

bororoのジュエリーが、多くの人にとって単なる装飾品ではなく、“自分自身と付き合っていくための存在”のように感じられる理由。その輪郭が、今回のインタビューを通して少し見えてきたような気がします。

「これからも、世界各地を旅しながら、まだ見たことのない景色を持った石に出会っていきたい」

そう語る赤地さんが、これから先、どんな風景の中で、どのような物語を紡いでいくのか。新たな門出を迎えたbororoが見せてくれる未来に、静かに期待が高まります。

interviewed on 2026.5