日本で初の個展を開催《marta boan(マルタ・ボーアン)》インタビュー

スペインを拠点に活動するマルタ・ボーアンさんは、今、世界中で話題を集めているジュエリーアーティストです。この夏、日本で初めての個展を東京・恵比寿のギャラリー ドゥポワソンで開催。それに合わせて新作コレクション「FACT」を発表します。そこで現在に至るまでの道のりやインスピレーション源、大好きな旅などについてインタビュー。彼女の魅力について探ってみます。

英語版のインタビューはこちらを御覧ください。
Please click here for English page.

JJ:
最初は彫刻を学んでいたようですが、いつからジュエリーに興味を持ち始めましたか?

Marta:
バルセロナ大学に通っていた頃はアートを専攻し、平面よりも立体のほうに興味を持っていたので、その表現方法として選んだのが彫刻でした。でも後から気づいたんです。私が求める表現方法として彫刻はサイズが大き過ぎると。そしてベストなサイズ感がジュエリーだったのです。

ちょうどその時、エストニア芸術アカデミーで私の最終研究プロジェクトを手がける機会を得られ、制約のない自由な環境の中で自分が求めるジュエリーをつくることができました。その時にスタートしたのがmin.(※Martaさんの作品を代表するコレクション名)です。

JJ:
なぜジュエリーデザイナーになろうと思ったのですか?

Marta:
20代の半ばに私は1年かけて中南米を旅し、メキシコからブラジルに渡る際に生活の糧として、種、糸、骨、クリスタル、シルバーのワイヤーといった素材を使い、ネックレスやイヤリング、指輪などをつくる職人になりました。

ふるさとのバルセロナに戻ってからは、その経験を生かしてジュエリーのデザイナーになりたいと思い、専門的な勉強を始めました。金属の技法を学ぶのが特に好きでしたね。そこで気づいたのが、自らの手によって元とは違う形に変化する金属に惹かれたことです。

JJ:
昔はどんな子供でしたか?

Marta:
今もそうですが何かを見つけ出すことが好きな子でした。多分、現在のクリエーションに影響していると思います。例えば東京を歩いていて、突然おもしろいことに出くわすとします。それがジュエリーの発想にも繋がる。自分のジュエリーを見た人も何か発見してもらえたら嬉しいです。

JJ:
Martaさんは旅がすごく好きですね。なぜですか? インスピレーションを得られるからですか?

Marta:
はい。新しい地で様々な文化に触れることが好きで、特に人々の暮らしに興味深々です。旅先では積極的に人に会っています。そうすると、ふるさとのバルセロナにいる時とは違う別の自分を見つけられるのです。だから海外でいろんな人と親交を深めるのが好き。もちろん海外にいても私は私。でも新しい環境でたくさんの人に会うことで、私自身から何かを学んでいる気がします。

JJ:
好きなアーティストやデザイナーは誰ですか?

Marta:
なぜか私はコンセプチュアルアートがすごく好きで、若くして亡くなってしまいましたが、Eva Hesse(※エヴァ・ヘス/ポスト・ミニマリズムの流れを持つ彫刻家)のような美学を持つべきだと思いますし、アートとライフを同時に楽しんだ彼女の生き方にも魅かれます。

フィクションを創造し、想像力をデザインするDunne & Rabby(※ダン&ラビー/クリティカルデザインを手がける二人組)を知った時の衝撃は今も覚えています。彼らのカンファレンスに行ったら、クリエーションにおいてジュエリーはどうあるべきか考えこんでしまいましたが、これこそが私が求めていることで、しかもすでに自分がつくるジュエリーで表現していると気づきました。

どうやって制作し、どうやってミックスさせて現実性を出し、新しいものへと変化させるか。私はそういったクリエーションに刺激を受けます。私たちは真実から新しい何かを生み出そうとしますが、真実は一体何でしょう? 真実とフィクションの境目はどこでしょう? そういう意味では、真実とフィクションの狭間で書き綴るRoberto Bolañon(※ロベルト・ボラーニョ/現代ラテンアメリカ文学を代表する小説家、詩人)の小説が好きです。

JJ:
好きな素材は?

Marta:
ミニマムサイズのジュエリーを手がけるうえで一番しっくりくるのがゴールド。それとチタンも。どちらも強度があるので小さなサイズでもクリエーションがしやすいですが、どちらも密度が全く違います。ミニマムな世界観が伝えられるので、min.やPolimin.など自分自身のコレクションだけでなく他のプロジェクトでも使っていますが、チタンはライトすぎるので、最近はゴールドに絞っています。

Joyas, Marta Boan

JJ:
ジュエリーを手がけるうえで一番大切にしていることは?

Marta:
コンセプトから始まり、様々な問題を取り組んでいく。そういったプロセスを大切にしていますが、美しいジュエリーをつくり、自分の美学を貫くことにも重きを置いています。自己や心の中を表現する手段としてジュエリーを身につけることが好きですし、またその思いを伝えられるジュエリーに私は尊敬の念を抱きます。だからこそ私自身が身につけたいかどうかも、ジュエリーをつくるうえでは重要です。

JJ:
新作コレクションの「FACT」について教えてください。

Joyas, Marta Boan

Marta:
「FACT」は今回個展を開かせていただくギャラリードゥポワソンのために制作した特別なコレクションです。向こうから声をかけてくださり、本当にうれしかったです。日本で初めての個展は私にとって新しいチャレンジ。極限までシンプルに仕上げたコレクションにしてみました。

「FACT」は変化して起きた事実をジュエリーに託しています。余計なことをせず単純明快なデザインにしたく、でも私らしさとして、見えるところと見えないところに規則的かつ不規則なルールを設けました。そこから導き出されるのは、私たちが見ているものは何か、そして見ているものの本質は何か、ということ。それらの間にはゲームが存在し、認めたことだけが見えることを伝えたかったんです。

JJ:
ご自身のクリエーションにおいて「変化」がキーワードでしょうか?

Marta:
そうですね。旅先でもクリエーションでも、私が注目していることは変化です。これまで意識していませんでしたが、感覚的に変化を探しているみたいですね。コンセプトを設けるというのは、見えない何かを探すことに繋がります。禅の言葉でもあるように、私たちは常に変化しています。行きたい流れに沿ってゆっくりと。人生もクリエーションも同じことが言えるような気がします。


EXHIBITION “FACT”

新作コレクションの名前をタイトルにした日本初の個展では、同じ重さのゴールドでつくられた様々な形のジュエリーとオブジェを発表します。左右不対称のピアス、厚みが異なる2連のリング、同じ形でも断面のカッティングが違うバングルなど、どれもがミニマムなデザインの可能性を探りながら、強いメッセージ性を込めているのがポイント。この夏、千葉・松戸開催されたアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」で手がけた作品なども展示され、マルタさんの世界観を存分に堪能できるチャンスです。お見逃しなく。

イベントについて詳しくは「スペインのジュエリーアーティスト マルタ・ボーアン日本で初個展開催 – 恵比寿」も御覧ください。


PROFILE

marta boan/マルタ・ボーアン

1976年スペイン・バルセロナ生まれのジュエリーアーティスト。ヨーロッパを中心に様々な活動を行い、アートシーンでも注目され、様々な賞を受賞している。
公式HP | http://www.martaboan.com


Text by Yoko Yagi

 


 

RECENT POSTS