
2024年にブランド創立15周年を迎えた《BIZOUX(ビズー)》。カラーストーンが主役の豊富な商品ランナップはいま、デビュー当時より力に満ち溢れ、見るものを惹きつけています。
デザインチームの中核をなすのはディレクターの小川さんとデザイナーの堤さんなど4名のアトリエメンバー。時代と共に《BIZOUX(ビズー)》らしさを追求するデザインのあり方や海外のデザインコンペティションでの受賞作品、カラーストーンに込めた想いなどをお二人に伺いました。

すべては石から始まる物語 ― 大粒のボルダーオパールに引き寄せられて
日本のジュエリーブランドがイタリアでデザイン賞を獲得したー
ジュエリー業界では少し前にそんなニュースが飛び交っていた。
ジュエリーブランド《BIZOUX》の「Premium Collection」に位置づけられる「Plongereclat(プロンジェエクラ)」がイタリアの「A’ Design Award & Competition」でブロンズ賞を受賞したのは2024年のこと。
この賞は最高のデザイン、デザインコンセプト、製品、サービスを選ぶ世界最大級のデザインコンペティションで、約100か国からデザイナーが参加している。ことジュエリーに関しては技巧を凝らした工芸的な作品が多く、表現も含めて芸術性の高さが問われる賞だ。
《BIZOUX》って、あのかわいらしいデザインのビズー?
そう思われた人も多いかもしれない。2009年にカラーストーンをメインで扱うECショップから創業し、今は国内に10店舗を持つほどに成長しているブランドだ。受賞した「Plongereclat」は、2023年にオープンしたGINZA SIX店の限定品としてデザインされた。

デザイナーの堤さんに制作のきっかけを話していただいた。
「《BIZOUX》らしくカラーストーンをメインに据えたデザインにしようと、会社のストーンストックへ探しに行ったんです。そこで一つのボルダーオパールを見た瞬間、これだ!と惹きつけられて。この石の中に飛び込んだイメージを形にしたいと思ったのが制作の第一歩でした」
堤さんによってデザインされたPlongereclatは、イタリアでも大きな反響を呼んだ。
「大粒のボルダーオパールはどこの海とも言えない、浅瀬や深海が混ざったようなカラーストーンでした。この石の海に…という想像が広がり、透き通ったグリーンやブルーのマーブルが奥底まで続くような海を思い描いたんです。ワクワクしながらデッサン画を描き、設計段階では水のしぶきなど、宝石で描くディテールの詰め方にも、とことんこだわりました」

しぶきが跳ねている様子を表現するため、先端はテーパードカットのダイヤモンドを散りばめ、広がり方もランダムに、高低差をつけて設計した。
脳内で思い描いた海の色を再現すべく、メインのボルダーオパールに合わせグリーンのエメラルドやブルーサファイヤなどを一つひとつ重ね、0.1mm単位でのデザイン指示をすることもあった。職人と対話し、妥協することなく試行錯誤を繰り返した結果が、イタリアでのデザインアワード受賞に繋がる。
ほかにも、「Bouquet papillon principal(ブーケパピヨンプリンシパル)」「Fleur(フルール)」など、自然界の「その瞬間」を切り取ったような情緒的なデザインが目を奪う。豊富なカラーストーンと職人技、そしてデザイナーの感性が溶け合い生まれたであろう商品たちを目の前にすると、老舗ジュエラーのギャラリーへ来たかのような錯覚を覚える。
しかし、《BIZOUX》とはそもそもこのようなブランドだったのか?
創業当時から《BIZOUX》のデザインを手掛け、現在はディレクターを担う小川さんはこう話す。
「意外かもしれませんが、創業当時から常に引き算を意識したデザインを多く発表していました。カラーストーンの美しさを真っ直ぐに追求する姿勢は今も変わりません。一方で、情緒的なモチーフも当初から制作していましたが、ブランドステージの変化とともに、表現の幅が広がってきたように思います。カラーストーンを素材として、コンセプトや世界観(情景)をどのように描いていくかを、今は模索しています」
見た人がこの世界を思い浮かべられるかどうか、が商品化に踏み切るポイントと言う。桜をモチーフにするとしたら桜が散っているのか、咲いているのか。どんな場所で咲かせてきたのか。 《BIZOUX》の魅力はいま、卓越した情景の表現力にある。
人と同じようにそれぞれの魅力を―貴石も半貴石も「らしさ」を活かす
情景が伝わるデザインをブランドの真骨頂とする《BIZOUX》は、創業当時の方針からぶれずにカラーストーンが主力の商品を手掛けている。それは、創業者の故・関口哲史氏が強く抱く想いからだった。
共にブランドを築き上げてきた小川さん曰く、関口氏は「宝石に対して思い入れが強く、熱くてロマンチスト」。 かつて、宝石といえばダイヤを連想させるジュエリー業界に、「大きさや透明度など誰かがきめた基準では測れない魅力が宝石(カラーストーン)にあることを伝えたい(故・関口哲史氏の言葉より)」という想いから、商品として扱いづらいカラーストーンを主軸にしたブランドをつくり、“打って出た”当事者だった。
そんな熱い夢を抱いていた関口さん同様、海外買い付けで世界中の魅力的なカラーストーンに出会ってきた小川さんは 「色とりどり、種類も数多あるカラーストーンをメインとしたブランドをつくり、それになぞらえて人も個性があることが魅力ということを伝えたいのは、創業当時からいまも変わりません」 と話す。

商品作りに関して社内での明確な分業はなく、デザイナーは買い付けに行きながら商品企画も行う。石と出会った瞬間の喜びや希望をダイレクトに商品へ繋げられるわけだ。
香港、タイ、インド、アメリカのツーソンなど世界各地へ足を運びながら、《BIZOUX》の良き理解者でもあるサプライヤーとは常に連絡をとり、時期を関係なく石の仕入れを行う。
色が魅力のカラーストーンだが、その色は必ずしも圴一でない。活かせば利点でもあるが、量産時のネックともなる。この素材がある時期までジュエリー業界のメインに躍り出なかったのにはそんなわけもあるだろう。そこに敢えて切り込んだ《BIZOUX》のチャレンジ精神は改めて見上げるものがある。
「不定形、少数の石は扱いにくいので他社はあまり買いません。先にご紹介したPlongereclatのボルダーオパールも、社内にあったストックは一粒だけ。そのぶん、圧倒的に魅力ある石でした。こんな石をちゃんと買っておいてくれたのはさすがだな、と思います」と堤さんは言う。

カラーストーンはどうしても個体差があるもの。石の色や形、カラットなどをなるべく揃え、安定した品質で量産できるような商品づくりにはこだわる一方で、唯一性が特徴の一つであるカラーストーンを活かす商品計画にも積極的に取り組むのが《BIZOUX》のスタンス。

石の特徴を活かすという点では、一般的に半貴石と呼ばれる石を用いて特徴的なデザインを施したライン「VACANCES(バカンス)」も魅力的だ。
トレンドに流されない、長く使えるものを目指している《BIZOUX》らしく、マイナーで価値が認知されていない石でも「良いものをたくさん見て、人生経験も積まれた方」が身につけることをイメージしたという。
たっぷりとした雫型やラウンドシェイプの半貴石にキラッとしたファセットカットが施された宝石を加え、互いの良さを引き出している。

発想の転換で生まれたヒットデザイン―集めて魅せる宝石のかけら
そして素材入手が不安定な中で、手元にある石を少しでも生かした商品を、という観点から生み出されたヒット商品もある。「toricago」はそのひとつ。

カラーストーンの製造過程でどうしても出てしまうのが、石欠けや品質が基準に合わず使われない宝石。熟練の職人によっても力加減の塩梅で割れてしまった石や、社内の厳密な選定基準に適合しなかった石に光を当て、ロマンティックなモチーフで主役に仕立てあげたのがこのデザイン。店舗によりルースセットで鳥かごの中身の石を選ぶイベントが開催されることもあり、文字通り「想いをこめた」ギフトとしても嬉しいアイテムとなっている。
このほかにも、宝石カプセルトイでルビーなども含めた貴重な天然石が当たるキャンペーンや、年末年始にはカラーストーンの「標本セット(宝石標本)」を発売していたことも(人気のため、在庫切れで現在は販売中止)。
ジュエリーという枠を越え、カラーストーンの魅力を最後まで楽しんでもらいたいという飽くなき素材の追求にはSDGs的な観点も含めて《BIZOUX》らしい宝石愛があふれている。
インタビュー後編は、扱いにくいカラーストーンゆえに光る職人技やチームでデザインする強み、《BIZOUX》ブランドの今後の展望などについて伺います。
interviewed on 2025.07
BIZOUX
ONLINE STORE:https://bizoux.jp