3つのモチーフから始まった10年間の歩み《小林モー子》インタビュー − 後編

ブランド発足10周年を迎えて、7月10日より恵比寿のgallery deux poissonsにて数年ぶりの個展を開催している《Môko Kobayashi(モーココバヤシ)》の小林モー子さん。インタビューの前編ではフランスオートクチュール刺繍との出会いから、パリの『Ecole Lesage broderie d’art(エコール・ルサージュ)』での学びの日々、さらにブランドがスタートした当時のお話を伺いました。後編では、数年ぶりの開催となる個展のお話や今夏にアトリエ近くの古民家でスタートする新規飲食事業についても伺いました。

Môko Kobayashi Exhibition 『見えない左手』より、「街角シリーズ(PINS)」の復刻と新作

1人ではたどり着けなかった現在のクリエイティブ

2010年から日本へ拠点を移し、本格的に始動した《Môko Kobayashi(モーココバヤシ)》。現在、アトリエ『maison des perles(メゾン・デ・ペルル)』で7名のスタッフと5名のアルバイトとともに制作活動や刺繍教室を展開している。

「ブランドを始めたとはいえ、これからずっと1人で活動していくのだろうと当時は思っていました。それが2011年の夏にはスタッフをお願いして、自宅に来てもらうようになって。そのうち自宅での制作活動が手狭になったこともあって、同じマンションにもう1室貸りてアトリエにしたりと、徐々に広がっていきました。スタッフの多くは刺繍教室に通ってくれた人で、他には『Ecole Lesage broderie d’art(エコール・ルサージュ)』で刺繍を学んだ後に私のところにきてくれた人もいます。まさかブランド10周年をこんなに多くの仲間と迎えられるなんて思っていなかったですね。

スタッフが増えたことで、《Môko Kobayashi(モーココバヤシ)》は技術的なところも格段にレベルアップしました。たとえば強度の問題やアクセサリーの裏面加工など課題がいくつかあったのですが、スタッフみんなで話し合ったり知恵を出し合うことで多くのことが解決できました。そのおかげで制作可能になったモチーフやデザインも増えています。私1人で作家活動を続けていたら、10年経っても辿り着けなかったことだと思います。

さらに言うと私自身は計画性があるとは言えず、まずは行動するタイプ。2016年にフランスに3ヶ月短期留学をしたときも私がいきなり留学宣言をしたにも関わらず、スタッフが綿密に準備をしてくれたとことで刺繍教室はお休みすることなく続けられました。子どもが生まれた時もサポートしてくれたり、そんな意味でもスタッフには感謝しきれないほどです」

アトリエ『maison des perles(メゾン・デ・ペルル)』


刺繍教室で制作された作品。使用する生地や素材が多岐にわたるフランスオートクチュール刺繍の作品では、ヴィンテージビーズ以外の素材を使うことも。

復刻と新作づくしの個展『見えない左手』

7月10日より恵比寿のgallery deux poissonsでは6年ぶりとなる個展『見えない左手』を開催する。

「今回の個展では、ブランド発足から10年の間に制作した500を超えるデザインの中から「街角シリーズ(PINS)」の復刻と新作を含め約25種が登場します。さらに人気モチーフをモノクロにしたエディション作品Noir et Blancシリーズや猫シリーズに加えて、新作であるgallery deux poissonsのHOPE企画シリーズなど、幅広い雰囲気が勢揃いします。フキダシシリーズの新しい言葉バージョンも登場予定です!これだけ新作が揃うことも稀だと思うので、多くの方にご覧いただけると嬉しいですね」

「通常制作しているものはモチーフの愛らしさや色合いも相まってかわいい印象ですが、今回の個展で発表するエディション作品Noir et Blancシリーズは同じモチーフでもモダンな雰囲気がおすすめです」と、小林モー子さん。

Môko Kobayashi Exhibition 『見えない左手』
日時:2020.7.10 fri.−7.26 sun. 12:00-19:00
場所:gallery deux poissons
住所:東京都渋谷区恵比寿2-3-6 1F
URL:https://www.jewelryjournal.jp/event/21985/
問合せ先:03-5795-0451
作家在廊日:7.10 fri.−7.11 sat. 14:00-19:00 / 7.19 sun. 15:00-18:00 / 7.26 sun. 14:00-19:00

ビーズで思い描く未来、美味しいもので紡ぐ未来

日本刺繍で作られているお相撲さんの化粧まわしに興味をもち、ぜひビーズで手掛けてみたいとインタビューなどで言い続けていたところ、ご縁があって安美錦元大相撲力士の化粧まわしを手掛けたこともある小林モー子さん。実現したいと願うことは臆することなく言葉にしてきたと語るが、今後の展開については予想外のプロジェクトも始動していた。

「《Môko Kobayashi(モーココバヤシ)》として今後手がけてみたいのは、ビーズで作った点字の本。をビーズで作ってみたいです。渋谷の松濤に『Gallery TOM(ギャラリートム)』という視覚障害者のための手で見るギャラリーとして開設された私設美術館があって、そこで展示とかもできたらいいなと。一般的な点字は半球で表現されているので、球体のビーズで再現できるのか?など、いろいろと課題は多そうですが、ぜひかなえたいですね。

刺繍以外では、今夏に『こんにゃく寿司とかき氷 KON』という新規飲食事業をスタートします!これは10年ほど前に訪れた熊本・阿蘇(小国)のお婆様が作ったこんにゃく寿司をいただいたことがきっかけです。一度食べた時から虜になってしまって、こんな美味しいものをみんなにも食べてもらいたいとずっと思っていたんです。自分の好きなことをライフスタイルに取り入れたいという想いに仲間が賛同してくれて開店することになりました。

かき氷の方は、数年前からお酒を使った“大人のかき氷”があれば面白いと心に潜めていたことがきっかけです。いろんなスタイルのかき氷店を訪問した時、渋谷にある「セバスチャン」のかき氷が忘れられず。今回の開店に伴い飛び込みでの交渉をしたところ、「セバスチャン」オーナーの川又さんがレシピ監修を快く受け入れてくださることになりました。

こんにゃく寿司もかき氷もどちらも私自身がとても美味しいと思ったメニューで、家族や大切な人たちにぜひ食べてもらいたいと思うおすすめの味です。この美味しいものをお届けするにあたって思い描いていた空間に出会うこともできました。幸運にもアトリエ『maison des perles(メゾン・デ・ペルル)』から50mほどと近距離な場所で、素敵な古民家なんです。アトリエとは異なる雰囲気も楽しんでいただけたらと思います」

こんにゃく寿司とは、稲荷寿司の油揚げのかわりに熊本産醤油やきび砂糖で炊いたこんにゃくで包んだもの。KONの一品は大葉と山葵をきかせて、さらに山椒の葉がアクセントになっている。こんにゃく寿司の発祥は、海の魚がなかなか手に入らない高知の山間部で身近にあるものを使って「寿司=ご馳走」を生み出したことといわれている。土佐の先人達の知恵やユーモアを引き継ぎつつ、現代のアイデアを加えた田舎寿司。高知のこんにゃく寿司を知った人が熊本(阿蘇・小国)で作り始め、小国の一部で話題となる。


1日を通して、さらには人生を通して仕事をしていくからこそ、自分自身はもちろんスタッフも楽しいと思える環境づくりも心がけてきたと語る小林モー子さん。彼女が思い描く楽しい環境づくりに美味しいが加わることで、《Môko Kobayashi(モーココバヤシ)》のクリエイティブはさらにユニークな世界を描くに違いない。


Profile 《Môko Kobayashi》小林モー子
アパレルメーカーのパタンナーを経て、2004年に渡仏。Ecole Lesage broderie d’artにてオートクチュール刺繍を学びディプロムを取得、パリを拠点に刺繍活動を開始する。画家大月雄二郎氏とのコラボレーション作品や、アクセサリー等の刺繍作品を制作。2010年から日本へ拠点を移し、刺繍アクセサリーの制作、オートクチュール刺繍教室を主にmaison des perlesとして活動を始める。フランスオートクチュール刺繍の世界において古くから伝わる伝統技術にcrochet de luneville(クロッシェ・ド・リュネビル)と呼ばれるかぎ針を使用したテクニックがあり、その技術を中心に様々な刺繍活動を行う。
公式HP | https://maisondesperles.com


Text by Naoko Murata




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