Moments in New York – Vol.4 「Melee the Show」前編

ニューヨークの2月は、様々な展示会で賑わいますが、吹雪の中、飛ばされそうになりながら会場に向かう年もあり、毎年、とても思い出深いです。11月から12月にかけてのホリデー商戦後の品揃えをリフレッシュすべく、バイヤーたちが集まります。そんな展示会シーズンを前に、昨年8月開催された、ファインジュエリーの展示会 “Melee the Show” の様子を、今見るには眩しすぎる、夏の光を纏った写真たちとともに、お届けします。

すっかり定番になった”Melee the Show”の今回の開催場所、The Lighthouse, Chelsea Pier 61には、ハドソン川からの爽やかな風が吹き抜けていました。普段から結婚式、新商品発売イベント、カンファレンスなど、様々なイベントに使用されるこのスペースは、以前、貿易船着場でした。そのため、窓の外はすぐハドソン川で、何とも眺めが良いのです。

ハドソン川沿いは、各種スポーツフィールドや自転車専用レーンも整備されています。ブースから、ふと全開の窓の外に視線をやると、ランニングウェアでぱっちり決めた人が、そのすぐ脇を走り抜けて行ったりして、日本の展示会では見られない開放的な雰囲気は、なんとも、愉快でした。

デザイナー本人がブースに立つのが、この展示会の特徴です。特に初日の午前中は、1点ものが見られることもあり、アメリカ国内各地のバイヤー、オーナーが一堂に会し、キリッとした緊張感がありました。ソファがゆったり置かれたスペースもあり、お水やコーヒー以外にシャンパンもサーブされ、お昼時はランチが登場するのが好評。お肉ランチとベジタリアンランチの2種類。ブラウニーやクッキーのような活力源(!)は、いつでもチャージしたいときに摘めるよう、常備されていました。

全65名を超える出展者の中から、今回は、4人のジュエリーデザイナーにお話を伺っています。前編、後編に分けて2人づつご紹介していきますのでお楽しみください。

 


Megan Thorne

テキサス州北部の街、フォートワースにスタジオ兼ショールーム店舗を構えているMegan Thorne。ブライダル、とりわけエンゲージメントリングに定評があります。

 

—– スタジオやショールーム、店舗の立地選びは、ジュエリーデザイナーにとって、そこに根付き、ブランドやコレクションを発展させていくために、非常に重要だと思います。テキサス州フォートワースにある、あなたのスタジオ兼ショールーム店舗は、あなたにとってどんな場所ですか?

Megan:
私の最初のスタジオは、自宅のガレージでした。ジュエリーデザイナーとしてのキャリアに真剣に取り組み始めた時、フォートワースの、新進気鋭のアーティストが集まるエリアにある小さな地下スタジオに移りました。そのエリアは、まだ、ざらっとした雰囲気がありました。そのスタジオで10年近くを過ごした頃、周辺エリアも盛り上がり、期待通りに、センスの良いスモールビジネスやアーティスト、店舗が集まってきました。

その頃、スタジオに初めて職人を雇用し、スタジオから1ブロックだけ離れたところにある病院で息子を出産しました。そういった環境にいることが、とても私らしく、また、居心地よく感じていました。2019年に、さらにもう一人職人を雇用したい、もう一台作業ベンチを入れたい、と考え始めたけれど、スタジオはそれには小さく、そこに止まることで、ブランドを大きくすることができないと感じ、それはとても難しい決断だったのですが、スタジオを引っ越すことに決めました。

パンデミックが起きた時、広々とした新しいスタジオで、夫と二人、安心して仕事を続けることができたのは、新しいスタジオの環境に馴染む過程を容易にしてくれたと思います。以前のスタジオは、とてつもなく低い天井と、100年前に作られた崩れかかった壁、そして、目立たないけれど、魅力的な中庭に面した入り口がある、秘密の隠れ家のようでした。

新しいスタジオは、1920年代に建てられたアパレルの工場の1階にあります。信じられないほど高い天井と、たくさんの自然光に溢れ、インダストリアルな格好の良さがあります。新しいスタジオで制作をするようになり、私自身、もっと色を使うようになったことに気づきました。自然光がとても大きな役割を果たしてくれています。

 

—– あなたのウェブサイトでお祖母様から強い影響を受けたというエピソードを読んでいたので、今日も、自身で制作なさったリングと一緒に、お祖母様のリングを身につけているのに気づき、とても嬉しく感じています。お祖母様からの影響について、聞かせてください。

Megan:
二人の祖母は、私のクリエイティビティが育つのに、大きな影響をもたらしてくれました。美術教師で陶芸家だった祖母と、ブライダルサロンで縫い手をしていたもう一人の祖母。私は、レースやドレス生地に囲まれて育ち、夏休みには、絵を描いたり、陶芸の展示会を手伝ったりして過ごしていました。

その頃から、将来は、何らかのアートに携わるのだろうと思っていました。実際に、ジュエリー制作の技術を学びに学校に通い直す前まで、洋服デザインを勉強し、ランジェリーの会社でアシスタントデザイナーとして働いていました。幸運すぎることに、二人の祖母は90歳を超えても、未だ元気です。

祖母から受け継いだことが多いので、ジュエリーづくりが、次の世代にも受け継いでいけることだというのは、私にとって、とても大事なことです。祖母たちとの素晴らしい関係は、私のデザインの方向性をかたちづくってくれました。デザインの細部に至るまで、年を経ても美しい、流行にとらわれないフェミニンなスタイルを好むのも、彼女たちから受けた影響に他なりません。

 

—– 常日頃から、あなた自身のコレクション制作と、顧客からの特別オーダー制作と、同時に取り組み、お忙しいことと思います。顧客からの特別オーダー制作の際に、あなた自身が一番大切にしているのはどんなことでしょうか?

Megan:
私のコレクション全体のまとまりと、お客様の要望を取り入れるバランスに、いつも苦労しています。私のスタジオには、そのお客様の頭の中のイメージを、実際のジュエリーとして形にするための技術があるかといったら、恐らく、十分にあるでしょう!でも、それは、お客様からの全ての依頼に対して、ふさわしいスタジオであることを意味する訳ではありません。

金銭的に報われても、自分の中の美学に寄り添わないご依頼に対して、ノーということは、常に怖いことではありますが、クリエイティブな視点を共有できるお客様のジュエリー制作に携わることは、私自身をも幸せにしてくれるし、結果的に良い仕事になると、長年かけて気づきました。

Megan Thorne | https://meganthorne.com/

 


TAP by Todd Pownell

オハイオ州クリーブランドにスタジオを構える、Todd PownellとDebra Rosenのデュオ・デザイナー。クリーブランドは、アメリカの五大湖のひとつであるエリー湖に面した街。そこで、3人の職人と共に日々制作しています。

彼らがつくるジュエリーに触れるとき、自然史博物館と現代アートギャラリーを同時に訪れているような感覚になります。ブランドの特徴の一つでもある、黒いライン使いは、深い夜空に浮かぶ天の川や、流れていく溶岩のようでもあり、また、ゴールドの多色使いや、様々な形、要素の組み合わせ方は、日本の伝統工芸を思い起こさせてくれます。

 

ダイヤモンドの留め方にも、大胆さと繊細さの絶妙なバランスがありますが、そもそも、ダイヤモンド自身が、ここにこうして居たい、と言ったかのように、必然的に感じられます。とりわけ、ペア・シェイプのローズカット・ダイヤモンドを主人公にしたリングには、ただただ、わーお!という言葉しか浮かびませんでした。

ダイヤモンド自体は、ほんの少し黄味がかっていて、3.03カラットの大きさとのこと。その大きなダイヤモンドが、驚くことに、裏返したブラックダイヤモンドの上に浮かぶように留められています。細部まで見れば見る程、そのアイデアに圧倒されました。

この展示会に参加している意義について、尋ねたら、以下のように答えてくれました。

Todd:
この展示会のコミュニティは、とても素晴らしく、今回も、たくさんのダイナミックなエネルギーを感じています。また、ジュエリー業界全体への敬意も感じられます。ここに集う全員が、ジュエリー制作への知識を含む、ものづくりやデザインへの理解を共有しているように思います。このコミュニティの一員であることをとても光栄に感じています。

TAP by Todd Pownell | https://www.tapbytoddpownell.com/

 


 

Melee the Show | https://www.meleetheshow.com/

Tucson:
2023年1月30日 ― 2月1日
The Stilwell House / 134 S 5th Ave, Tucson Arizona

New York:
2023年2月6日 ― 8日 10:00-18:00
The Lighthouse / Chelsea Pier 61, New York

 


 

「Moments in New York – Vol.4 」後編では、カラフルなサファイアと、オーガニックな仕上げが特徴のPage Sargisson、そして今やニューヨークにはなくてはならない存在として話題のYasuko Azumaが登場します。

ぜひお楽しみに。


https://www.jewelryjournal.jp/top/30712/


Keiko Anzai
Keiko Anzai
安西啓子 Keiko Anzai
東京生まれ東京育ち、ニューヨーク・ブルックリン在住。 大学在学中より、インテリアやジュエリー店舗にて経験を積んだ後、ファッション分野に移り、バイヤーとして、地球の反対側まで新しい何かを探しに行っていた。 2016年よりニューヨークのジュエリー店舗店長として勤務後、2022年に独立。日米の様々なプロジェクトに携わりながら、自身のジュエリーショップ"ansun"もスタートした。
ansun | https://ansunnyc.com/

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