繊細な世界で追い求める永遠の強さ 《kataoka(カタオカ)》インタビュー

目を見張るほどの繊細さの中に緻密なデザインを施したジュエリーが国内外で評価され、幅広い層から支持されている《kataoka(カタオカ)》。この冬、東京・都立大に次いで、ニューヨークに念願のショップがオープンしました。

アノニマスな古い物に魅かれるという作り手の片岡義順さん。どうやらその背景にはお母様の存在があり、ブランドの世界観にもつながっているようです。デザイナーであり職人でもあること、店とアトリエが一緒であることの大切さ、将来についてなど。様々なことをご本人から語っていただきました。

東京・都立大にある旗艦店にて。ブランドの設立と同じ2011年にオープン。作り手の片岡さんが自ら店内のディスプレーを行い、kataokaの世界観を表現しています。

次なるステップとして挑戦した ニューヨークの出店

「5年前からラスベガスで開催する『COUTURE』(※)に出展しています。少しずつ卸先がグローバルに広がり海外のお客様も増えてきたので、次のステップとして、海外に店を出してもいいかもしれない。そう思いスタッフに相談したところ、ニューヨークに出店する話が急浮上して物件を探すことに。ジュエリーブランドもマーケットの中心であるニューヨークに店を出すことは憧れです。商業的なことは苦手で、そういう意味での広がりではなく、小さくコツコツと良いジュエリーを世界中のお客様に届けたい。kataokaを立ち上げた時からその思いがあり、海外への進出は視野に入れていました。

『COUTURE』の出展もその一つで、昨年からボールルームというワンランク上のブースに移りました。嬉しい反面、よりクリエーション力が求められるので気合いが入ります。だからこのタイミングで新しい刺激を受けて士気を上げる意味でも、ニューヨークに店を出すことはいいかもしれない、と思ったんです。でも理想のところはなかなか見つからず。2年がかりでトライベッカにある今のところを見つけ、今年の10月に無事オープンを果たすことができました。

ニューヨークの店は東京の店よりも倍以上の広さで天井も高く、ギャラリーのような空間です。どこか一角をギャラリースペースにして知人や共感するアーティストの作品を展示してみては?という声もいただきますが、まずはお客様にkataokaの世界観を知っていただきたいので、今はその予定はないです。でも、東京の店とは違う魅力を出していきたいので何か表現したいですね。オープン時はメキシコからお客様がはるばる駆けつけてくださいました。しかも『東京のショップにも行きます』とおっしゃってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。インスタグラムからもお祝いの言葉をたくさんいただき、幸先のいいスタートを切りました。でもこれからが肝心。kataokaらしいジュエリーを作りながら、店を続けながら、より上へ上へと目指していきたいです」

※COUTURE……世界トップクラスを誇るジュエリーの合同展示会。ラスベガスで毎年6月に開催され、世界中の名だたるブランドとバイヤーが集まります。日本からの出展は大手メーカーが2、3社で、kataokaのような個人規模のデザイナーズブランドは非常に珍しいそうです。

今年10月、ニューヨークのトライベッカにオープンした旗艦店。昔ながらの街並みが残る洗練された大人のエリアで、老舗のレストランやアートギャラリーが軒を連ねます。奥行きのあるクリアな店内には、定番から新作、ブライダルまでフルコレクションを展開。

kataokaらしい デザインを求めて

「ラスベガスの『COUTURE』に初めて出展した際、バイヤーから『あなたのジュエリーはどこ? 小さすぎて見えない』と言われました。海外のジュエリーは大ぶりで派手なのが主流です。出展の審査が厳しい『COUTURE』に通過し、意気揚々として世界の舞台に出た矢先、バイヤーからのその一言で不安になってしまいました。思わず隣りのブースの人に嘆いたら『大丈夫。ここはアメリカだから絶対に受け入れてくれる人がいるはず』と。その人、僕よりもうんと若い女性でしたが妙に安心したのを覚えています。

それから『すごく繊細な作り、見たことがない!』と自分のジュエリーを認めてくれるバイヤーが少しずつ現れ始めて……。もう20年近く前の話ですが、自分がジュエリーの世界で活動を始めた1990年代の日本は、いわゆるファッションみたいにデザイナーズブランドがまだほとんどなかった時代でした。大手メーカーが作る量産型のジュエリーか、百貨店の上の階で先生と呼ばれるような人が作る一点物のジュエリーか、その両極だった気がします。

自分はどちらもピンとこなくて、その中間にあたるジュエリーが作りたいと思いました。商業的ではなく、作家のように一点ずつ手がける。それは作品のようでいて、でも一点物と呼ばれるジュエリーではなくて……そうして自分らしいジュエリーを求めて作っていったのが、kataokaの始まりです。もともと繊細なデザインは好き。ミルグレイン(※)を筆頭に細かい技法をふんだんに取り入れてアンティークな風合いを出していき、自分らしさを追求していきました。繊細で華奢でとても小さな存在だけれど、心を奪う驚きと美しさがあり、何十年も何百年も残したくなるような強さを持つジュエリー。それがkataokaが目指すデザインです。海外はもちろん日本の方からも、そんな自分のデザインを『日本人らしい』『見た瞬間にkataokaとわかる』『個性があるのに手持ちのジュエリーと合わせやすい』と評価してくださいます。そういう言葉をいただく度にモチベーションが上がり、次のステップへとつながっていきます」

※ミルグレイン……リングなど地金のエッジやラインに小さな丸い粒を連続して打ち込む技法。

定番コレクションから。(写真上)ブランドを象徴する「Snowflake」のリングはその名の通り、キラキラと舞い散る雪のような輝きが魅力。華奢な分、強度を出すのにコツがいるそう。(写真中・下)「Less Is More」は特殊なレーザーで穴を開け、カッティングに特徴のあるダイヤモンドをあしらっています。ネックレスもピアスもシンプルを極めた繊細な作り。でも動くたびにきらめく光は圧倒的な存在感を放ちます。

アノニマスな 古い物に魅かれる理由

「昔から名前が先立つような既製品がどうも苦手で、それよりも名のないアノニマスな古い物が好きです。旅先ではよく蚤の市に出かけます。集めた古道具を加工し、什器やオブジェにして店に飾ったりしています。なぜ自分は古い物に魅かれるのか。様々な人の手に渡り、何十年も何百年も残っているあの強さでしょうか。ジュエリーを作る身としては、すぐには消費されない、あの強い佇まいに刺激を受けます。実はさらに魅かれる理由について探っていくと、母の影響が大きくあると思います。母は大の骨董好きで、和も洋もいろいろ集めていました。そうした古い物に囲まれた家で育ったので自然に身についていったんでしょう。だから自身のクリエーションでも無意識に古い趣のあるがデザインが浮かぶんだと思います。

奥さんも古い物が好きで、以前、とある蚤の市で二人別々に見た後でどれがよかったか質問したら、お互いに同じ物を挙げて驚いたことがあります。おちょこのような豆皿のような小さな器。誰が作ったのか、誰が持っていたのかわかりませんでした。運命を感じて購入したら、後日、それは伝世的な由緒ある器で、最後は著名な方が持っていたことが判明。感慨深いですね。やはりその器のように、代々受け継がれていつまでも永遠に残っていく強さを持ったジュエリーを自分は作っていきたいです」

東京の旗艦店はジュエリーと共鳴し合うように、片岡さんが蚤の市で見つけてきたアンティークの什器や古道具が並んでいます。その中にお母様の写真が飾られているのが印象的。

ノートに日々綴った デザインの断片

「デザインと制作。自分の場合は片方だけではジュエリーを作ることができません。やはり両方を考えながら作るからこそ、独特なブランドの世界観が表現でき、続けられているんだと思います。だから自分はデザイナーであり職人です。感覚的には一人で店を切り盛りする料理人に近いところがあります。レシピを考えて調理もして盛り付けもして、なおかつテーブルセッティングもする。そんな自分が欠かさず持ち歩いているのがノートです。ふと浮かんだ絵をノートに描き留めて後で見返します。その絵を忠実に再現してく方法で作るジュエリーが全体の7、8割なので、ノートが本当に大事! 料理人でいうレシピ本にあたります。

でもそう言いながら、しょっちゅうどこかに置き忘れてしまう……。というわけで、ノートの裏表紙をめくったところに『このノートを拾われた方はお手数ですが、こちらまで送ってください』といった注意書きをするのがお決まりでして…。何度か落としていますが、そのおかげで全て戻ってきました。ノートに描き留めたくなるような絵が浮かぶのは、歩いていたり電車やバスに乗っていたりする時が多いかもしれません。一番、素でいるからだと思います。景色が変わる瞬間に思考も変わってパッとひらめく、みたいな。その積み重ねがノートに反映され、kataokaのジュエリーが生まれます」

デザインの中枢を担う大事なノート。「これがないとジュエリーが作れません」と言い切る片岡さん。ラフに描いているとはいえ、細い線で流れるようなタッチで描かれたジュエリーはとても目を引きます。

ショップとアトリエとお客様との関係性

「ニューヨークの出店があったからでしょうか。新作はガラリと変えたい気持ちになり今までにないデザインに挑戦したく、繊細な作りは変わりませんが、サイズ感や石の使い方などで大胆な要素を取り入れてみました。上から見ると爪がないように石を留めたり、独特なカットを施したアンティークのダイヤを使ってみたり、パールに不ぞろいの輪を組み合わせたりしています。前からブランドを知るお客様の反応が気になりましたが、驚きつつも受け入れてくださり手ごたえを感じました。

お客様の層は実に幅広いです。20代のカップルもいますし、母と娘の二世代もいます。インスタグラムを始めてからは海外からの連絡もたくさんいただき、kataokaのリングを手にした結婚式やプロポーズの写真を送ってくださるお客様が最近は多く、そういう繋がりが生まれて嬉しいです。ジュエリーはメモリアルでいてお守りのような存在。良い時も悪い時も一緒になってお客様のお手伝いをするというか……kataokaもそうありたい。

東京の店はアトリエを併設しています。なぜかというと、お客様がいる店の雰囲気を感じながらジュエリーを作りたいから。自分としては、アトリエの中に店がある感じです。実際に作業中をお見せすることはできませんが、お客様も来店した際にその感覚を受け止めてくれたらいいなと思っています。ニューヨークの店ではまた違ったお客様とのコミュニケーションをとれたら。その面でもデザインと同じく新しいことにチャレンジしていきたいです」

(写真上・中)繊細さと大胆さを併せ持つ、これまでにないデザインにチャレンジした新作。上から見ると爪が見ないように仕立てたリングは、カラーストーンとオリジナルにブレンドした18金の色合いが絶妙にマッチ。パールのネックレスはサイズの違う輪を組み合わせたのがポイント。微妙なニュアンスが存在感を際立てます。(写真下)東京のショップはアトリエを併設。時々、仕切りのカーテンが開いて片岡さんの姿が見えることも。


Profile kataoka/カタオカ
デザイナーで職人の片岡義順さんが2011年に設立。同時期に東京・都立大に旗艦店を構える。2015年よりラスベガスで行われる『COUTURE』に出展し、海外の活動を本格的にスタート。今年10月、ニューヨークのトライベッカに2号店となるショップがオープン。
公式HP | www.kataoka-jewelry.com/


Text by Yoko Yagi


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