《マロッタ忍(talkative)× 越智康貴(DILIGENCE PARLOUR)》ロングインタビュー – 後編

10周年を記念し表参道へ旗艦店を移転した《talkative(トーカティブ)》デザイナーのマロッタ忍さんと、そのビジュアル制作でタッグを組んだ《DILIGENCE PARLOUR(ディリジェンスパーラー)》のオーナーでフローリストの越智康貴さん。

その希少なコラボレーションきっかけと、交わり合う理科的美的センスについて掘り下げた前編に続き、お二人の「石」と「花」という嗜好品への想いや、デザイナーとして大切にしている視点に迫ります。

「理科好き」らしいプレゼンテーションのかたち

越智:ヌードセッティングって、よく見たい人にとってかなり嬉しいやつですね。僕も天然石に興味があるので、まじまじといろんな角度から見たいです。花は生き物だから、種から芽が出て根が生えて茎が出て、一枚の葉っぱが二枚になって…と、成長の過程で細胞分裂しているという事実が面白いのですが、石ってどう作られていくんですか?

マロッタ:宝石にはそれぞれ作られ方があるんですけど、簡単に分けると、結晶がひとつのまま大きくなっていく単結晶と、幾つかの結晶で出来た多結晶、またサンゴや象牙のような有機質なものもあります。お花が数日、数週間単位で細胞分裂して成長するのに比べて、何万年単位で出来上がっていくのが宝石。成長の過程での月日の流れ方がまったく違いますね。

越智:子どもの頃に塩を作ったことを思い出しました。そうやって自然界で生まれたものを、人間の美的感覚でひとつものに仕上げているのも、ジュエリーの魅力のように思います。

マロッタ:石は、原石のままも美しいんですけど、カッターさんのセンスがかなり問われる世界です。特に私の場合は、貴石でも半貴石でもインクルージョン(内包物)があるものをあえて選ぶことが多いので、その石をカットしてどの部分にほくろやそばかすのような個性(インクルージョン)を持ってくるかで、ジュエリーの見え方が全然違う。最後までこだわってお化粧してあげて出来上がったものは、やっぱり魅力的。自然にできたものを人が加工する妙ですよね。今のお話から、ディリジェンスパーラーのかすみ草を思い出しました。スタンダードなお花が並ぶ中に、色付きのかすみ草が置かれていますよね。あれすごく目に止まります。

越智:理科ですよね(笑)。花は品種改良で色を濃くしたり大きくしたり色を変えてみたりすることは生き物なので倫理観が問われるのですが、色つきのかすみ草は品種改良とかではなくて、吸わせる水に色を入れています。小学生の頃、学研の観察キットでありの巣を作ったんですけど、あれです。買っていただく方には「可愛い」とか「きれい」で選んでもらっていいんですけど、色とか形にはそうなった過程や技術があるから、自分が持っているイマジネーションを形にするためにそういうものを選んできている節はあります。マロッタさんみたいに、そこにシンパシーを感じてくださる人と出会うきっかけにもなっているかも。

マロッタ:あのかすみ草を見て、すごく納得が行ったんです。ナチュラルやオーガニックが善しとされることが増えている現代で、もちろん自然との共存なので倫理的な境界線はありますが、人の手が入ることでもう一段階素敵になることってあると思います。

アーティストではなくデザイナーだという意識

越智:中間地点の魅力というのも感じませんか? 多くの場合、素材を活かすことが最終地点とされがちですが、その過程も先もある。僕はそれが、アート作品とは違う物流の面白さだと思っています。花を育てる農家の方がいて、卸しの人たちが市場に出して、さらに買い付けをする僕達みたいな小売がいて、お客さんのところに届く。その間にも花は生きていて、最終地点とかないんです。だからこそ僕の立場でできることって、パッケージに焦点を当てることかなと。あの透明のパッケージでお花を持ち歩く人たちが表参道ですれ違う時、それが文化になる時なんじゃないかなって。マロッタさんは、社会が必要としているものと、自身のクリエイションがフィットするもの作りができているからいいですよね。

マロッタ:社会的な見え方は意識しています。グラフィックを学んでいた頃の恩師から、「デザイナーはアーティストとは違って、必ず第三者がいるもの」ということを教わりました。自分のために何かを作るのではなくて、誰かのために要望を聞いて、世の中にないものを作るのがデザイナー。必要としている人がいる世界の中で、自分だったら何ができるか、パフォーマンスを良くするためにはどうすべきかというのは、考えていますね。要望を知るために、お店って私にとってすごく重要な場所。

越智:コール&レスポンスですよね。分かる。

マロッタ:ジュエリーってなかなか即決できるものではないから、悩んだり考えたりしながらゆっくり決めたいと思うので、このお店はいかにリラックスしていただけるかと考えました。あとこれもコール&レスポンスのコール(提案)の部分かもしれないのですが、職人の作業台が見える窓を作りました。職人が手を動かして作っているという事実をお見せしたくて。

ブランドカラーのレモンイエローが差し色になっている店内。大きな窓から光が差し込む明るい空間。中央に設置されたソファーなどはホテルの部屋の一角のよう。事務所へ繋がる扉にはガラス窓が付いていて、職人が作業する手元を垣間見ることができます。

物流だからこそ嗜好品に込めたいユーモア

越智:お店って大切ですよね。あとこれも物流の楽しさなんですけど、やっぱり手に取った人が笑顔になるとかって、普通に目指したいんですよね。ステファン・シュナイダーというファッションデザイナーは「ユーモアなきファッションは死」と言っています。ユーモアとかウィットな見方って元々は何にでも存在していて、それを残すかとり外すかの作業。手に入れるその過程とか、最終身につけたり飾ったりどんな瞬間でもいいんですけど、なんとなく「喜び」があるものでありたいから、加工する段階でのユーモアって、必要だなって。

マロッタ:それにも共感しますね。デザインをする上で、引き算が好きで、だけど、その中にどのユーモアを残しておくべきかというのは制作過程ですごく考えます。それってミニマリズムとは相反するものなんだけど、そのウィットさの加減が、色気とか揺らぎを生むのかもしれません。

マロッタさんが足し算引き算を繰り返しながらデザインしてきたコンテンポラリージュエリー。[/caption]
越智:そういえば、僕がジュエリーを好きになったのって、ギャラリードゥポワソンでコンテンポラリージュエリーとかコスチュームジュエリーというものを知ったのがはじまりでした。当時は服飾の学校に通っていたですが、ファッションの中でもジュエリーって特別なもの。去年の6月にパリで『Médusa, bijoux et tabous』というジュエリーの展覧会やっていて、そこでは、例えば画鋲みたいなピンを差しているだけのものからマイケル・ジャクソンの手袋、エルメスのチェーンバングルまで展示されていて、自由だなって思ったんです。飾ることって、すごい可能性を秘めている。着飾ることとか、ジュエリーとか花って生きるのに不可欠ではないけど、明るい未来かなって。

マロッタ:生きる上では一番下のレイヤーにあるものだけど、だからこその喜びがありますもんね。

越智:僕の大好きな嗜好品たち。ジュエリーで楽しい未来を見せてねトーカティブって、思ってます。

マロッタ:同じことを思っています(笑)。同じ表参道という街にお店をオープンしたことによって、ますます気持ちが高まっています。花とジュエリーの力で、この街を歩く人たちの表情がパッと明るくなることを願いましょう。


PROFILE

《マロッタ忍(まろった しのぶ)》 – talkative デザイナー

グラフィックデザインの第一線を経験後、ジュエリーデザイン及び制作を学び大手企業でジュエリーデザインの企画に携わる。JJAジュエリーデザインアワード新人賞、伊丹クラフト展審査委員賞を受賞するなど、グラフィカルでウイットの効いたデザインが注目を集めている。日本の量産向けのジュエリーと海外で見るアートジュエリーの間のような、カジュアルに身に着けられるファインジュエリーブランドがまだまだなかった2008年、グラフィックを学んでいた感性を活かして、この隙間のカテゴリーになれるようなジュエリーブランドをつくりたいと《talkative(トーカティブ)》を設立。
talkative HP | http://www.talkative-jwl.jp/

《越智康貴(おち やすたか)》 – フローリスト

フラワーショップ「ディリジェンスパーラー」オーナー、株式会社ヨーロッパ代表。フローリストとして活動する傍ら、多方面の媒体で執筆活動も行なっている。
DILIGENCE PARLOUR HP | http://diligenceparlour.jp/


interviewed by Yukiko Shinmura
photo by Sato Koto



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