HOORSENBUHS(ホーセンブース)デザイナーインタビュー

2005年、ロサンゼルスで誕生したジュエリーブランド〈HOORSENBUHS(ホーセンブース)〉。クラシックでありながら反骨的、重厚でありながら静謐──その唯一無二の存在感は、ハリウッドをはじめ世界中のクリエイターやアーティスト、俳優たちを魅了し続けてきました。

ブランドを率いるのは、フォトグラファーとしてキャリアをスタートさせたロバート・G・キース。写真からジュエリーへと表現手段を変えながらも、彼の制作に一貫して流れているのは、「時間」「記憶」「アイデンティティ」といった目に見えない価値へのまなざしです。

20周年という節目を迎えたいま、HOORSENBUHSはどこから生まれ、何を大切にしながら育まれてきたのか。ロバート・G・キース本人の言葉を通して、その輪郭を丁寧にひもといていきます。

HOORSENBUHSのはじまり ― 表現としてのジュエリー

HOORSENBUHSの出発点にあるのは、「ジュエリーブランドをつくる」という明確な計画ではありませんでした。むしろそれは、表現への衝動が自然と行き着いた先だったと言えます。

ブランドを立ち上げたロバート・G・キースは、もともとフォトグラファーとして活動していた人物です。ジュエリーの世界とは異なるフィールドにいながら、彼の関心は「人は何を身につけ、どのように自己を表現するのか」という点に向けられていました。

「ジュエリーは、私にとって自分らしいスタイルを完成させる最後の要素でした。集めていくうちに、その作品そのものに強く惹かれるようになり、やがて自分自身で何かを生み出したいと感じるようになりました」

装身具は、古代から人間の自己表現の根源的なかたちであり、同時に帰属意識や共同体とのつながりを示す象徴でもあります。その普遍性が、ロバートをジュエリーという表現手段へと導きました。

写真からジュエリーへ。表現するメディアは変わりましたが、彼のなかで変わらなかった感覚があります。

「写真もジュエリーも、時間と意味に深くかかわっています。写真は一瞬を切り取り、ジュエリーは時を超えて残る。けれどどちらも、記憶やアイデンティティを宿す“タリスマン”のような存在になり得ると思っています」

光、素材、フォルムをエネルギーと意図の器として捉え、目に見えないものを感じ取れるかたちにする。その姿勢は、フォトグラファー時代から一貫しています。

こうしてHOORSENBUHSは、装飾品としてではなく、「在り方」を語るジュエリーとして歩み始めました。

HOORSENBUHSというブランドの輪郭

HOORSENBUHSは、ハリウッドをはじめ世界中の著名人に愛用されてきました。しかし、その広がり方は決して誇示的なものではありません。常に注目を浴びる立場にいる人々が、このブランドに惹かれる理由について、ロバートは次のように語ります。

「彼らにとってHOORSENBUHSは、とても”私的で個人的”な存在なのだと思います。さりげなく、時代に左右されず、自信をもって強さや美意識、個性を表現できる。魅力の本質はステータスではなく、アイデンティティにあります」

リングやブレスレットを見た瞬間に、HOORSENBUHSだと分かる。その強い存在感についても、彼の考えは一貫しています。

「最初から“シグネチャーをつくろう”とは考えていませんでした。大切にしていたのは、フォルムの誠実さ。強いプロポーション、反復、そしてバランス、その積み重ねが、時間をかけてひとつの言語になっていきました。新しく作り替えるのではなく、磨き上げられてきた、というのが正解かもしれません。」

認識されやすさは、ブランディングの成果ではありません。一貫性と抑制、そして明確な意図をもって作り続けた結果の副産物だったといいます。HOORSENBUHSが流行ではなく、長く身につけ続けられる存在である理由は、ここにあります。

象徴としてのデザインと構造美

HOORSENBUHSを象徴するモチーフといえば、「トライ・リンク」を思い浮かべる人も多いでしょう。アンカーチェーンの3つの輪が連なるこの構造は、ブランドの核とも言える存在です。

「完成した瞬間、それはもう十分に成立していると感じました。プロポーションも整っていて、過度に主張することなく、永続性やつながりを表現していました」

その力は、象徴性を狙って生まれたものではなく、構造的な確かさから自然と立ち上がったものでした。

HOORSENBUHSの造形は、装飾というよりも構造そのものが語るジュエリーです。重さや量感、強いプロポーションは、建築的とも言える思考のもとで導き出されています。

「フォルムとバランスが正しければ、作品は自らの存在感を持ちます。私は効率のためではなく、重みや質感、そして真実性を大切にしてデザインしています」

つくり、削ぎ落とし、磨き上げ、必然だと感じられるところまで突き詰める。時間やコストを惜しまないその工程は、美しさ以上に「それが本当に必要かどうか」という問いに貫かれています。

説明を必要とせず、ただそこに在ることで成立する強さと抑制。その姿勢こそが、HOORSENBUHSの造形を特徴づけています。

時間とともに育つブランド ― チームとともに築く持続性

ブランド誕生から約20年。HOORSENBUHSは、世界的な認知を得ながらも、その佇まいを大きく変えることなく歩みを続けてきました。急激な拡張やトレンドへの迎合ではなく、時間を味方につけながら、輪郭を研ぎ澄ませていく。その姿勢こそが、このブランドの成長のあり方です。

ロバートは、この20年を振り返りながら、成長をこう定義します。

「変わったのは、規模と精度です。ブランドはより多くの人に届くようになり、求められる基準も高くなりました。 一方で、重さ、フォルムの誠実さ、節度という核の部分は、何ひとつ変わっていません」

HOORSENBUHSにおいて成長とは、方向転換ではなく、意志をより明確にするプロセス。その考え方は、ブランドの“場”にも反映されています。

2025年12月にオープンしたロサンゼルス・ヴェニスビーチに構えるフラッグシップストアも、販売拠点というよりも、HOORSENBUHSの思想を体感するための空間。静けさと余白を備えたその佇まいは、作品と同じく、過剰に語ることがありません。

「ここは、売るための場所というより、私たちの姿勢を表すアトリエです。作品の延長として存在している空間です。」

空間にまで意志を宿そうとする姿勢は、HOORSENBUHSのものづくりと地続きのものです。ただし、その理想を一過性の表現で終わらせず、長い時間軸で成立させるためには、強い美意識だけでは足りませんでした。

そこで重要な役割を担ってきたのが、ブランドディレクターのケシャー・パーカーです。サーフィンを通じてロバートと出会い、人生の純粋な高揚感を共有してきた存在。彼は、ロバートの内的な美意識を、現実のビジネスへと翻訳し続けてきました。

「彼は、私のビジョンを商業の言語へと正しく変換できる、非常に特別な存在です。感覚と現実、その両方を理解しているからこそ、ブランドは無理なく持続できるのです」

個人の強い意志と、それを支える実務的な視点。その両輪が噛み合うことで、HOORSENBUHSは拡張ではなく“定着”というかたちで成長してきました。20年という時間を経てもなお、ブランドの核が揺らがない理由は、作品だけでなく、こうした信頼関係の積み重ねにもあります。

時間を共有する ― 身体と場所、その先へ

その力強い造形から、日本では男性向けジュエリーとして語られることの多いHOORSENBUHS。しかし海外では、性別を超えて多くの女性にも愛用されています。

「女性がルールに縛られずにHOORSENBUHSを楽しんでいるスタイルに魅力を感じます。強くて、個人的で、使い込まれていること。ミックスしたり、重ねたり、毎日身につけて、やがて自分の一部になるまで。これはジェンダーの話ではありません。存在感や自信、そして“自分のものにしていく”という感覚の話です」

HOORSENBUHSのジュエリーは、完成した瞬間がゴールではありません。時間をかけて身体に馴染み、使い手の生活や記憶をまといながら、ゆっくりと完成へ向かっていきます。

「初めて触れる方には、ぜひ焦らず、ゆっくり楽しんで、時間をかけて馴染ませ、自分のものにしていってほしいですね。そうやって、何世代にもわたって愛され寄り添う存在になれたら嬉しいです。」

ロバート自身が身につけているのは、ブランド初期につくられたジュエリーたち。20年近く、日常とともに時を重ねてきた作品です。「いまでは、ジュエリーというより身体の一部のような存在です。」

現在、HOORSENBUHSは次のフェーズへと歩みを進めています。ニューヨーク・ウエストヴィレッジでのアトリエオープン、そしてその先に控える表参道ヒルズ店。それらは単なる拠点拡大ではなく、「どの場所で、どのように在るか」を問い続けた末の選択です。

「空間もまた、作品と同じです。そこに流れる時間や空気が、自然とブランドの姿勢を伝えていく。そうした場所を、日本にもつくれることをとても楽しみにしています」

重さと時間をまとうジュエリー。
HOORSENBUHSはこれからも静かに、身につける人の人生と時間を共有しながら、その輪郭を深めていきます。


インタビューを通して浮かび上がってきたロバート・G・キースの印象は、終始一貫して静かで、実直なものでした。言葉を重ねすぎることなく、必要なことだけを、確かな重さで語る。その佇まいは、彼自身のジュエリーとよく似ています。

「一日の中でいちばん大切にしているのは、朝、すべてが動き出す前の静かな時間です。まだ何も決まっていない、すべての可能性が開かれている状態。その感覚が、制作の源になっています 」- ロバート・G・キース

緊張と解放が同時に存在する、朝の静けさのような時間。そこには、過去を受け止めながら、未来へと開かれていく、かすかな余韻があります。

HOORSENBUHSというブランドもまた、その時間の感覚をまといながら、これから先へと歩みを進めていくのでしょう。声高に語ることなく、しかし確かな意志を内に秘めて。

interviewed on 2026.1

ホーセンブース 表参道ヒルズ店
日程:3月28日(土)グランドオープン
営業時間:11:00~20:00
場所:表参道ヒルズ 本館1階
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ 本館1F


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