「?」と「!」を生み出すジュエリーの物語 talkative(前編)

「会話の生まれるジュエリー」をコンセプトに、遊び心と実用性を兼ね備えたラインナップを展開するtalkative(トーカティブ)。デザイナーのマロッタ忍さんに話を伺いました。
*こちらの記事はインタビュー前編となります。後編はこちらから。

平面的な発想を、立体のジュエリーにどう落とし込むか

JJ:
talkativeの象徴となっている「会話の生まれるジュエリー」というコンセプトは、どのように生まれたものなのでしょうか。

マロッタ:
その根底には「グラフィック的な視点からジュエリーを作っていく」という考えがあると思います。私はジュエリーを始める前、大学時代にグラフィックデザインを学んでいました。グラフィックというのは「平面(2次元)」の世界ですが、ジュエリーは小さな建造物のようなもので、基本的に「立体(3次元)」の世界です。例えばtalkative初期からの定番である「JEWEL SLICE(ジュエルスライス)」というシリーズは、宝石の上面図(カットの展開図)を湾曲してリングに仕立てたデザインになっているんですね。

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JJ:
パッと見“美しい幾何学模様”のようにも映りますが、そのような構造になってたんですね。

マロッタ:
これは元々、エメラルド・カットやダイヤモンド・カットなど「図面の美しさを身につけてみたい」という思いから生まれたものなのです。さらに、丸めることにより、ただ図面の美しさをトレースしたのではなく、そこに新しいカタチが生まれました。

JJ:
なるほど。

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マロッタ:
このように、「平面から得た発想にアイデアを加えて立体に落とし込む」というのが私の原点になっているわけですが、できたモノを人に見せると、「これってどうなってるの?」「そういう作りになってたんだ!」と、そこで会話が生まれることが多かったんです。これは私にとってすごくうれしい体験で、ジュエリーを単に“宝飾”としてだけでなく、“コミュニケーションツール”としても楽しんでもらえたらいいなという思いが生まれていきました。

JJ:
確かに、初めて「BLANCO」を見たときも、最初は「まるでブランコのようにキラキラと揺れるピアスだけど、これは何だろう?」と感じましたが、空中ブランコになっていることをうかがい、「まさにホントだ!」とつい驚いてしまいました(笑)。

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マロッタ:
それはうれしいですね。そうやって、身につけてくれた人に会話が生まれるようなジュエリーを作っていきたいという思いがブランドのコンセプトになりました。

“作品”と“商品”の融合点を探る

JJ:
talkativeのジュエリーと言えば、テーマや発想のおもしろさだけでなく、女性デザイナーならではの繊細な気配りや、モノとしての品質の高さといった部分にもこだわりを感じます。

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マロッタ:
ありがとうございます。そこには、ジュエリー専門学校を卒業したあとに3年間勤めた、ジュエリーメーカーでの経験が活きていると思います。学校ではアートジュエリーのコースにいたので、基本的にビジュアル優先のモノ作りをしていました。しかし、企業デザイナーとして勤めたメーカーでは、耐久性やつけ心地といった要素が求められます。また、日常で身につけるアイテムとして、「服に合う」「肌をキレイに見せる」「年を重ねても永く愛せる」といった女性目線のディティールを追求したモノ作りも身につきました。

JJ:
“作品”ではなく“商品”としての視点が求められる、という感じでしょうか。

マロッタ:
そうですね。追求するクオリティのベクトルが違うというか。その両方を経験できたことが、talkativeのモノ作りに活かされています。作品としてのコンセプトはしっかり立たせつつも、それに縛られすぎず、身につけてくれる人に寄り添うデザインを心がけています。

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JJ:
「ブランド内に職人を抱えている」というのも、talkativeの特徴のひとつですよね。

マロッタ:
talkativeの商品はひとつひとつ作り方が異なっていて、料理で言うと「すべてレシピが違う」みたいな感じなんですよ。例えば「FRAME」というシリーズは、金線で一本一本立体的に表現していくという建築的な考え方が必要な制作方法であり、「DIVIDE」はパールを割って正確に中心をとり、さらに地金を組み合わせていくという、金以外の素材を扱う技術や知見が必要になってきます。このように、商品によって調理法が全く異なるというのは、実は非常に手間のかかることであり、デザイナーと職人が同じアトリエにいるという環境だからできることだと思います。

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JJ:
技術者が同じアトリエにいることで、細かいディレクションが可能になるわけですね。

マロッタ:
それもありますが、職人の意見を聞くことによってデザインが洗練されていくことも多々あります。また、デザインをジュエリーに落とし込む実作業の部分でも、職人と密接にコミュニケーションを取りながら作っていきます。例えばブランドのコンセプトを象徴的に表した商品である「TALKATIVE MOUTH」を制作した際は、クチビルのモチーフをシンプルな形に落とし込んだあと、リップの質感を表現するために縦じわのテクスチャを入れたり、輪郭のラインだけ磨きを入れてキラっとしたニュアンスを出したり、職人と一緒にディティールを追求しました。ここまで細部にこだわることで、クチビルという一見ユニークなモチーフにも繊細な表情が生まれ、品格の漂うジュエリーになります。ウィットは大切にしたいけれど、決して奇抜にはならないよう、細心の注意を払っています。

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JJ:
スタッフ間で意見交換し、とことん試行錯誤しながらコンセプトをジュエリーに落とし込む。そこがtalkativeの強みというわけですね。

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ひとつとして同じ表情がない天然石。その魅力とジレンマとは?

JJ:
天然石が直線的にカットされた「STICK」シリーズはものすごいインパクトですね。

マロッタ:
これはシンプルを極限まで突きつめたいという思いで作ったシリーズなんです。ただ、天然石なので元々すべて表情が異なっているわけですが、特に柄や模様のあるものは原石をトリミングする場所次第で表情がまったく変わってしまうため、扱うのがとても難しい。

JJ:
なるほど。先に型が決まっていると、切り出し方が制限されてしまうわけで……そこはジレンマですね。

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マロッタ:
天然石ならではの美しさを引き出すことにこだわり、地金とも美しくマッチするようなデザインを目指しました。talkativeのファンには、グラフィック的な視点で形作った地金を好いてくださる人もいるし、私が一点一点選んできた天然石を好んでくださる人もいます。さらに、それらを融合したデザインを求めてくれる人も多く、「STICK」ではその地点に挑戦しています。メノウを主役にしたジュエリーは珍しいと思いますが、天然石特有の素朴な感じが出すぎないよう、緊張感のある直線的なデザインを心がけました。

JJ:
素朴な疑問なんですが……「STICK」の天然石と地金ってどうつながっているんですか?

マロッタ:
ふふふ、そこには職人たちの苦労が隠されているんですね〜。ぜひ伊勢丹でじっくりお手に取ってみてください(笑)。

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素材やコンセプトと真摯に向き合い、遊び心とデザイン性を兼ね備えたジュエリーに昇華させていく──。これがtalkativeのモノ作り精神ではないかと感じました。
インタビュー後編はこちらからご覧いただけます。

interviewed by Takayuki Kiyota
photo by Sakiko Kishimoto/Chihaya Kaminokawa
talkative:http://www.talkative-jwl.jp/
Jewelry Journal Artist Page:https://www.jewelryjournal.jp/brand/talkative/

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