BIZOUX(ビズー)インタビュー – 後編

2025.8.4
PHOTO YUMIKO MIYAHAMA
PHOTO YUMIKO MIYAHAMA

2024年にブランド創立15周年を迎えた《BIZOUX(ビズー)》。

カラーストーンへの想いや受賞作品について伺った「BIZOUX(ビズー)インタビュー -前編」に続き、後編は巧みな職人技術が作り上げる商品やクリエイションの厚みが増したデザインチーム、今後のブランドの展望などについてお届けします。

そして、ブランドを続けていくにあたり最も難しいこととは。
ディレクターの小川さんとデザイナーの堤さんによる、カラーストーンへの真摯に向き合う姿勢が印象的なインタビューとなりました。

Chromatophore (クロマトフォア)カラーストーンを中心に392石がセッティングされている。宝石を引き立てるため、ひとつひとつの宝石に対して爪は最小サイズ、最小本数で設計されている *現在は一部店舗のみで取り扱い


職人との試行錯誤―アレキサンドライトと新たなデザイン開発

カラーストーンを扱い続けるブランド《BIZOUX》として卓越した技術と表現力の象徴となるのが、カメレオンをモチーフにした「Chromatophore(クロマトフォア)」だ。

クロマトフォアとはカメレオンの光に反応する細胞・色素胞を意味する。カメレオンのように色を変えるカラーチェンジの天然石「アレキサンドライト」と、高度なパヴェセッティングなどの技術の融合により、2023年のGINZA SIX店1周年記念として誕生した。

「銀座という街で1周年を迎えられたこのタイミングで、《BIZOUX》の象徴をつくろうと思ったのがきっかけです。ブランドならではのカラーストーンを大胆に活かしたデザインをと考えました」(小川さん)

宝石と宝石の隙間を極限まで無くすことを求められるパヴェセッティングは、石の品質と設計の緻密さが重要になる。また、それらの色、厚み、サイズなどが徹底して揃っていることが必須で、さらに《BIZOUX》では輝きの強さ、色の調和まで厳選されたものだけが、クロマトフォアに使用されている。

デザイナーが描くイメージと、CAD職人による緻密計算を融合する作業が繰り返された結果の、ハイジュエリーだ。

たった一人の職人が石の種類やサイズによって工具を使い分け、細心の注意を払いながらセッティングしていく

石留めひとつにもこだわりが込められ、光の当たり方や着用感にまで配慮した設計は職人泣かせとも言えるが、受け止めるのは技術に定評がある国内の選りすぐりの工房の職人たち。

幾度ともなくキャッチボールを繰り返し、練磨を重ねたチームならではの仕上がりだ。

「EMMA dot」のマルチカラージュエル18Kリングとバングル。小粒のカラーストーンと華奢なゴールドのステムが織りなす端正なデザインで存在感がある – PHOTO YUMIKO MIYAHAMA


チームで描くールビーのアクセント

職人の技術を引き出しながら、卓越した表現力を放つ《BIZOUX》のジュエリー。そのデザインの源はどこにあるのだろうか。ブランドのアイコンの一つでもある「EMMA dot(エマドット)」のデザインストーリーから、制作背景を探ってみた。

「このデザインは、ステンドグラスから端を発しました。日本の建築写真を眺めていたときに、ステンドグラスの写真が目についたんです。いわゆる西洋の教会にあるようなカラーガラスで絵を描いたようなものではなく、格子状のデザインでした。そのシンプルさがとても素敵で」(小川さん)

その頃、《BIZOUX》では「Bouquet(ブーケ)」など華やかなデザインに人気が出始めていた。創業当時からデザイナーを務めていたディレクターの小川さんにとっては、初心に戻り「Serum(セラム)」のようなシンプルなジュエリーを作りたいと考えていた矢先の出会いだった。

一粒石で仕立てるに相応しく「本当に美しい」と思えるカラーストーンのみをセッティングした「Serum」。7mmを超える石だけを揃えたラージモデルもある。創業当初はこのように石をシンプルに引き立てるデザインが多かった

デザインに新しい感覚を取り入れたいと考えていた小川さんは、デッサン画や立体構造などを専門的に学んだ天然石好きの堤さんに声をかけたという。社歴に関係なく、もっといいものがつくりたいという願いからの声がけ。ホリデーシーズンに向けた商品にする予定で、堤さんが入社して間もないタイミングだった。

そして、「EMMA dot」は二人で初めて協力して取り組んだプロダクトとなった。

デザインを依頼されたときは「ステンドグラスをジュエリーに…? でも、クリスマスの新作だからムードは合っているのかも」とポジティブに承諾したという堤さん。ただ、入社後間もない堤さんにとっては、実際にデザインを始めてからが大変だった。

ステンドグラスそのものを想起させるようなジュエリーにする必要はあるのか?
そのまま表現してかわいいデザインに仕上がるのか?金属はどう使うのか?
シンプルな、とはどういうことか…?

脳内と手先で試行錯誤を繰り返し、ようやくメタルのステムにフォーカスをあてたデザインにするというアイデアを考えつく。

当時はそこまで地金も高くなく、直線をメインに構成したデザインで決定した。

「EMMA dot」のスケッチ。さまざまな角度を想定した立体のデザイン画はとても緻密に描かれている – PHOTO YUMIKO MIYAHAMA

小川さんも、上がってきたデッサン画を見て「これはかわいい!」と納得してくれたという。

そこからは色石の配列に悩み始めた。ステンドグラスのイメージを活かすため、様々な色味が混ざっているように見える配置を考慮したり、コントラストの必要性を模索し、完成間際で宝石の留め替えを行うなど、ギリギリまで粘った。

ウィンターホリデーシーズンの華やかさをどう加えるか最後まで悩んだ末に、最終的にルビーを2石加え、完成させた。

彩度の高いルビーを組み込むことで、全体の印象が引きしまり、魅力が増す

「ジュエリーは小さい世界なのでディテールの表現がとても大切です。堤さんはその汲み取りがうまくて気配りがあり、何より立体化されたときのデザイン力が高い。依頼するとこちらの想像を超え、120%、150%で出してくる」(小川さん)

結果、「EMMA dot」はカラーストーン7種―パライバトルマリン、ピンクトルマリン、ペリドット、アメジスト、イエローダイヤモンド、エメラルド、ルビーがゴールドのステムに整然と煌めくデザインに仕上がった。

デザイナーの堤さん。最も好きなカラーストーンはサファイア。「キラキラのシャープな輝きはもちろんですが、ブルー以外にもピンク、グリーン、パープル、バイカラーなど多彩な色があるのが魅力的です」 – PHOTO YUMIKO MIYAHAMA

イメージが先ではなく、石を見てからデザインするという堤さん。

「ジュエリーづくりでは、必ず職人に託す工程があるので、できるだけ意図を汲み取ってもらえるよう、設計図にはかなり力を入れています。完成形のイメージは明確にできているので、あとはどこまでそのイメージを図面に正確に落とし込めるかが、今の自分にとっては大きな焦点です」(堤さん)

ジュエリー商品のかなめをつくるのは、なんといってもデザイナー。特にカラーストーンは石の個性を見出し、活かすも活かせないもデザイン次第。
頼もしいデザイナーがまた一人増えることは、企業にとっての大きなエネルギーとなっている。

ブルームーンストーンやピンクサファイア、スイスブルートパーズなどをパヴェセッティングした「Bouquet」(左)と「Bouquet」から派生した「ミルキーアクアマリン プラチナ900リング・スノールナブーケプリンシパル」(右)
PHOTO YUMIKO MIYAHAMA


人気不動のアイコンジュエリー – 魅惑のパヴェセッティング

2009年の創業依頼、大きくデザインの幅とクオリティを広げカラーストーンを追求し続ける《BIZOUX》のアイコンジュエリーは、ロングセラーでもある「Bouquet」と「Coffret」。

宝石で花束をつくりたいという想いから誕生した色とりどりのパヴェセッティングが華やかさを極める「Bouquet」は、0.5ミリ単位で流通することが多いカラーストーンを、あえて約1.3ミリや約1.8ミリといったイレギュラーサイズにオーダーカットし、精美なパヴェを生み出している。

さらに、2024年に15周年を迎えたタイミングでリモデルし、ディテールのグレードが上がった。それは、長年に渡り《BIZOUX》の厳しく、細かなオーダーに答えてきた職人チームの技術向上によるところが大きい。当時は難しかった石止めのさらに密なセッティングや金具の研削など、細かい部分でのアップデートが叶っている。

その「Bouquet」から派生した「Bouquet Principal」はパヴェセッティングの中に大粒のカボションカットのカラーストーンを加え、優美さが増した贅沢なデザイン。このように、アンティークジュエリーから着想を得ているデザインが《BIZOUX》にはたくさんある。

エチオピア産オパール、ピンクサファイヤ、アクアマリンなど17石の宝石すべての特性を理解し、日本の職人の手による手作業で留められる「Coffret」

二大ロングセラー商品のもう一つは「Coffret」。左右対称が常識だったジュエリーデザインを見直し、それぞれの石が最も美しく見えるよう革新的なランダムセッティングが宝石箱のようなデザインだ。

「Bouquet」が人気だった当時に、マルチカラーの宝石使いは活かしながら別な雰囲気を持つ商品を生み出したいという思いがきっかけで誕生した。こちらも職人泣かせのデザインだが、他には類を見ない躍動感ある優雅な仕上がりが唯一無二で、結果的にはロングセラーとなっている。

いずれも石の個性を最大限に生かし、ぎゅっと閉じ込めたようなデザインが贅沢で《BIZOUX》らしい。華やかで心が躍るようなカラーストーンの饗宴はまさにアイコンジュエリーと呼ばれるに相応しい仕上がりとなっている。


宝石の海を泳ぎ続ける

2009年の創業当時、国内でカラーストーンをメインに扱うことがまだ珍しかった時代から、今も変わらずそのポリシーを貫いている《BIZOUX》。

カラーストーンの認知度や人気の広まり、地金の高騰、ラボグロウンの出現などジュエリー業界の環境が変化してきた中で、この先をどう見据えているのだろうか。
お二人に尋ねるとそれぞれの視点からの答えが返ってきた。

デザイナーの堤さん曰く、狙いはプレミアムライン。

「出店数も増え、お客様に見てもらえる機会がここ数年で増えてきました。買いやすいブランドから憧れの価格帯になってきたこともあり、アクセサリーではなくジュエリー好きに支持されるジュエラーになりたい。プレミアムラインはより開拓していきたいと思っています」

ディレクターの小川さんは「お客様から見て納得されるブランドへより成長を遂げたい」と話す。

「納得、とはものづくりへの向き合い方やクオリティは当然に、ブランドの思想をいかに感じていただけるかということにあります。ありがたいことに私たちの商品へのご支持を感じる場面とも多くなってきましたが、まだ《BIZOUX》がどのようなブランドなのか伝えきれていないと感じます。そのためにいま、原点に帰ってタグラインを再設定しようとしています」

仕入れや安定供給が難しいカラーストーンにこだわるブランドとして、信頼感を無くさないよう努力を続けたいとも語っていた小川さん。

日本国内での店舗展開のみならず、海外セレクトショップでの取り扱いも行われ、《BIZOUX》の世界を広げている。

国内10店舗の中核を担うのはGINZA SIX店(写真)と、表参道店(表参道ヒルズ内)。それぞれに店舗コンセプトがあり、カラーストーンを主役とした商品が店ごとに違った雰囲気で楽しめる。

インタビューが終わったあと、小川さんがぽつりとつぶやいた。
「ずっと石と向き合いデザインをし続けてきました。それでもこの仕事を続ける中で未だ最も難しいと思うのは、石なんですよね」

PHOTO YUMIKO MIYAHAMA

カラーストーンと真摯に向き合い、その輝きや希少性を大切にしながらブレずにここまできたからこそのブランドづくり。

一つのデザインからその先の情景まで見えるような彩りと生命力溢れるみずみずしいジュエリーは、《BIZOUX》のカラーストーンを見る目、探し出すネットワーク、デザイン力と卓越した技術があるからこそ生まれるもの。

それでもなお、デザイナー、職人、スタッフがそれぞれ幾多の試行錯誤を繰り返す先は、未だ予測や市場参入が難しいカラーストーンのブルーオーシャンだ。
《BIZOUX》の航海はまだ続く。

interviewed on 2025.07

BIZOUX
ONLINE STORE:https://bizoux.jp


Mayumi Kamura

嘉村真由美

編集者、マーチャンダイザー。コマーシャルギャラリーでのアーティストマネジメントから編集業を経て独立後、百貨店の松屋・MD部門に所属。ディレクション制作や新規ブランド開発を行う。専門分野はジュエリー、バッグ、シューズを主としたファッションアイテムとコンテンポラリーアート。

Instagram | @onigirimayumi

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