KOHKOH(コウコウ)ディレクターインタビュー – 前編

2025.5.23
photo yumiko miyahama
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精密鋳造部品メーカーから生まれた異色のジュエリーブランド《KOHKOH(コウコウ)》。“自由な形状の真珠”という唯一無二の素材を軸に、既成概念にとらわれない革新的なジュエリーを生み出し、今業界内でも注目を集めています。

今回はディレクターの小嶋崇嗣(こじま たかし)さんに、ブランド誕生の背景から、真珠に込めた思い、そして《KOHKOH(コウコウ)》が目指すこれからのジュエリー像についてお話を伺いました。

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「金属で真珠を育てられる?」─たった一言から始まった物語

JEWELRY JOURNAL(以下JJ):
精密鋳造部品メーカーがなぜジュエリーにまでその事業を広げたのか、KOHKOH立ち上げまでについて、まずはお伺いさせてください。

小嶋崇嗣(以下小嶋):
KOHKOHの母体である精密鋳造部品メーカー「キャステム」は、義父が社長を務める会社です。

もともとは胃カメラの部品や鉄道関連のパーツなど、極めて工業的な製品を手がけていましたが、それらの製作に用いる精密鋳造、金型製作技術を用い、キン肉マンやワンピース、ポケモンとのコラボ製品などといったカルチャーの領域へ、そして医療領域へも参画しています。

本業以外にも、常に新しい事業を立ち上げていくマインドが根付いており、宮古島、福山では農園でトマトやイチゴを育てて販売したり、近年ではデジタル分野にも注力したりと常にチャレンジをし続ける会社です。

私は、妻の家族が運営していた縁でこの会社と知り合うこととなり、多岐にわたる事業の一つ「養殖真珠」の事業に携わるようになりました。

JJ:
その「養殖真珠」も、実は社員の方の親族に真珠養殖の仕事を以前にされていた方がおられたのがきっかけだったと伺っています。多岐にわたるフィールドへと足を踏み入れるキャステムの”柔軟さ”にも驚かされますが、そのきっかけや発展が“人の縁”によるものだというところに、社長のお人柄も感じます。

小嶋:
そうですよね。KOHKOHも、ある日義父が「真珠の核に金属を使ったら、真珠層は巻くのかな?」とつぶやいたのが、すべての始まりでした。私はその時、「磁力を持たせたら、磁石でくっつく真珠も作れそうですね」と返しましたが、そのたった一つの会話から、金属核を使った真珠養殖の研究が始まりました。2018年のことです。

金属(左)とそれを核に生まれた真珠(右)

最初は普通の円い真珠ができたのですが、他との差異を感じられず、「円い真珠ではなくて、もっと個性的で立体的な真珠が作れないか」と試行錯誤を重ね、やがて3Dプリンターで成形したユニークな核を使って真珠をつくることに成功。核を取り出し、0.2〜0.3mmの極薄の真珠層だけを使うという独自技術も開発し、2021年に特許を取得しました。

そして2023年、私がディレクターとして本格的に参画し、「KOHKOH」というブランドがスタートするに至ります。


真珠は「育てる」もの

JJ:
試行錯誤を重ねられた「金属を核とした養殖」ですが、実際にどのようなプロセスを経て真珠が生まれるのでしょうか?少し具体的に教えていただきたいです。

小嶋:
そもそも真珠は若い貝ほど元気があり、きれいな真珠層を巻きます。まず、貝を少しだけ切開して核を挿入し、真円真珠を2年ほど育てます。

一つの貝で2回ほど真珠を育てることができますが、貝が5歳を超えると丸い真珠は難しくなり、半円真珠に使うか廃棄することになります。その歳を重ねた真珠を使用して我々は立体真珠を養殖しています。

私たちの場合、次のようなステップを踏みます。

①核の制作
デザインしたデータを高精度3Dプリンターを用いて核を作成します。モデルによってはCTスキャンを用いて3Dデータ化します。

②挿核、養殖
核を母貝に挿核し海に戻します。母貝には白蝶貝を使用しており、養殖期間は半年ほどです。

③浜揚げ
養殖から約半年後に母貝を海から引き上げます。その後1ヶ月ほど匂いが引くまで待ちます。

④真珠の取り出し、洗浄
母貝から真珠部分を切りだします。その後、モデルによっては中から核を取り出して真珠層だけを使います。

JJ:
核のデザインから真珠の誕生までは、想像を遥かに超えた時間がかかるんですね。匂いが引くのを待つのだけでも1ヶ月など、これまで知らなかった過程に興味が湧きます。

真珠というとやはり完成された素材をどうあしらうか、というところからスタートするジュエリーブランドが大多数な中、その形状自体をゼロから設計し、育てるというプロセスがKOHKOHの強みであると同時に、「作品としての真珠」がどれほど手間と時間をかけて生まれているのかが伝わってきます。

小嶋:
そうなんです。
実は最初の試作はアルファベットの形だったですが、こちらもアイディアを出し、核を入れてから実際に真珠となってみられるまでには7ヶ月かかりました。

photo yumiko miyahama

月日を経て実際に出来上がった真珠を手に取った時には、まず立体的な真珠ができるということに感動しました。そして、自分がイメージする自由形状が、これから真珠になるかもしれないと思うとワクワクしました。

ただ同時に、古くから仏像真珠やハートや星型の真珠が存在していることは知っていたので、世の中に対して「全く新しいイメージの真珠像」を生み出すのは簡単では無いということも強く感じました。

そしてそこから試行錯誤がまた始まります。

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一つの会話から始まり、試行錯誤を経て、全く新しい形の真珠を「育てる」ブランドへと進化した《KOHKOH(コウコウ)》。

そのプロセスには、伝統に対するリスペクトと、新しい価値を生み出そうとする熱意が詰まっていました。

インタビュー後編では、こうして生まれた“自由な形状の真珠”がどのようにジュエリーとして昇華されていくのか、《KOHKOH(コウコウ)》のデザイン哲学と作品の裏側、そしてこれからの展望について、さらに深くお話を伺っていきます。

interviewed on 2025.05

2025年5月28日(土)〜6月3日(金)、阪急うめだ本店1階 イベントスペース2にて《KOHKOH(コウコウ)》のLIMITED SHOPがオープンします。
詳細はこちらもご覧ください>>


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