エモーショナルなジュエリー Vol.7 「セオ・フェネル」

Diamond Castle Drawbridge Ring | 18ct Gold, Moonstone, Diamonds

自由な発想で、多角的な要素との関係性を持たせたジュエリー

多くのジュエラーにはアイコニックな作品というのが必ず一つや二つあるものだが、代表的作品が多過ぎて選べないのが、今回ご紹介するセオ・フェネルだ。ロンドン中心部の宝石街、ハットン・ガーデンで修行を積んだ後、セオが自身のジュエリーブランドを立ち上げたのは1982年に遡る。ジュエリーデザイナーになった経緯をセオ本人に聞いてみたところ、意外にもそれは全く偶発的な事だったという。

「当時はロンドンで創造性が爆発していた時代で、何もかもが可能に思えたから、クリエイティブな思考を持つ人間にとっては、やりたい事を一つに絞るのが難しいほどだった。ジュエリーやシルバーウェアのデザインがたまたま自分の気質に合っていただけで、ジュエリーデザイナーになったのは成り行きと偶然だったんです。」

 80年代前半のロンドンは、70年代のパンク・カルチャーによって既存の価値観が壊された後だったため自由な空気感に溢れ、常識にとらわれない表現が加速していた時代だ。レイヴ・カルチャーが生まれたり、ボーイ・ジョージが奇抜なファッションで一世を風靡したのもこの頃だ。そんな自由な時代にジュエリーを作り始めたのも、セオの発想力をより独創的にしたのかもしれない。

left : Wizard of Oz Emerald City Open-ing Ring | 18ct Gold, Emerald, Diamonds / right : Adam & Eve Opening Ring | 18ct Gold, Enamel, Diamonds

 冒頭と上記の画像は、リングの一部が開く仕組みになっている「オープニング・リング」と呼ばれる一連のシリーズだが、Wizard of Oz Emerald City Opening Ringは1939年の映画「オズの魔法使い」を観た事がある人ならば、たった一つの指輪でその世界観がここまで緻密に、そして美しく表現されている事に驚くことだろう。Adam & Eve Opening Ringにおいても趣向を凝らした装飾が一目で物語性を伝え、情報量が多いのにまとまりがあるデザインに仕上がっている。ユニークな機構も含め、映画や聖書の世界観を難なく表現してしまえるのも、セオならではの創造力によるものだろう。

「私はボブ・ディラン、レンブラント、マリリン・モンロー、P・G・ウッドハウスなど、幅広いジャンルの人物達からインスパイヤされてきたし、文学、音楽、香りなど、いつも多角的な刺激を受けてきた。優れたジュエリーデザインというのは、あらゆるジャンルの要素と関係性を持つことが可能だと思う。」

left : Cadogan Square Bangle With Dogs | 18ct Gold, Diamonds / center : Kensington Palace Gardens Ban-gle With Dogs, Cat & Sparrow | 18ct Gold, Diamonds / right : Kings Road Railings Bangle | 18ct Gold, Enamel, Diamonds

垣間見えるポッシュなイギリスらしさと、多方面への好奇心

セオの作品の一部を「イギリスらしい」と表現するのは簡単なのだが、イギリスらしさにも色んな種類が存在する。彼の場合には、ポッシュ(上品、上流階級らしい)なイギリスらしさを見て取れる。分かりやすい例として上記画像の、ロンドンの街をモチーフにしたバングルを見てみてほしい。このような形状の柵と地名が書かれた看板は、ロンドン中至るところで目にするものだが、これらのデザインに登場するのは全て、西ロンドンの高級エリアにある地名だ。

 一般的に、ロンドンは西側が高級エリアとされており、イギリスでは古い物件ほど価値があるため、上流階級の富裕層は、西ロンドンに立ち並ぶ美しいヴィクトリアン様式の家などに住む事が多い。その中でも、上記画像内にあるSW3やSW7といったポストコード(郵便番号)のエリアはロンドンの中心部にありながらも閑静な、超高級住宅地だ。セオは世界的に有名な名門校、イートン・カレッジ出身なのだが、イギリスにおいてそのようなパブリックスクールに進学出来る層は非常に限られているため、おそらくは西ロンドンに馴染みの深い家庭で育った事が推測できる。作品から西ロンドンへの愛が感じられるのも納得だ。

 異なるモチーフをそれぞれハート型と鍵型に象ったArts CollectionとKeys Collectionも、アイコニックなセオの代表作だ。これらのコレクションは約30年の間、毎回異なるテーマでデザインが作られて、何度も再解釈が繰り返されてきたが、デザインする上でセオが重視している事を聞いてみた。

「良いデザインというのは、どの時代においても過去を映すものだと私は考えています。また、チームで働くためにスタジオでは常に多方面から触媒作用があります。あらゆる事象に対して純粋な好奇心を向ける事と、独創的な思考力を持つ事が重要になります。ジュエリーデザインを長く続ければ続けるほど、良いデザインを作る秘訣は、新しいアイデアの累積の中にあるのではなく、アイデアを編集する作業の中にあると感じています。最も良いであろうアイデアを選び取って、そのスタイルを粘り強く、美しく編集して仕上げていくのが秘訣です。」

 セオがジュエリーデザイナーになったのは成り行きだったとはいえ、理知的な受け答えからは、多方面からのインスピレーションをデザインに昇華できる情報処理能力の高さを感じさせられて、代表作を数多く生み出した理由が分かるような気がするやり取りだった。セオならではのデザインに今後も期待したい。


 

画像/資料提供

Theo Fennell | https://www.theofennell.com


Mika Murai
Mika Murai
村井 美香 Mika Murai
1986年生まれ。大阪府出身。15歳の時に単身渡英。ケント州の高校をオールAの成績で修了した後、ロンドンの名門美術大学Central Saint Martins College of Art and Designに進学。その後、Kingston大学大学院に進み、首席で卒業。英国王室御用達のジュエリーブランドなど、様々な有名ブランドでデザイナーとして経験を積む。帰国後は国内の某ラグジュアリージュエリーブランドで勤めた後に独立。ジュエリーデザイナー 、コラムニストとして活動中。

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