KOHKOH(コウコウ)ディレクターインタビュー – 後編

photo yumiko miyahama
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“自由な形状の真珠”という唯一無二の素材を軸に、既成概念にとらわれない革新的なジュエリーを生み出している《KOHKOH(コウコウ)》のディレクターの小嶋崇嗣(こじま たかし)さんに、お話を伺っているインタビュー。

前編に続き後編では、“自由な形状の真珠”がどのようにジュエリーとして昇華されていくのか、KOHKOHのデザイン哲学と作品の裏側、そしてこれからの展望についてお伺いします。


コンテンポラリーとコマーシャルの橋渡しを目指して

JEWELRY JOURNAL(以下JJ):
「全く新しいイメージの真珠像」を目指す上で、小嶋さんの発想力やデザイン力が際立ってくるわけですが、ジュエリーのデザインのインスピレーションの源はなんでしょうか。

小嶋崇嗣(以下小嶋):
「現代にしか生まれないジュエリーを作りたい」という思いが根底にあります。ジュエリーの歴史は本当に長く、今までにない新しいジュエリーのデザインを頭で考えようとしても中々難しいのが現状です。

ただ、KOHKOHには社内にある技術や機械、工具等の独自資源が豊富にあり、それを出発点に新たな発想を生み出すことができます。

現代社会が抱える課題をコンセプトに、ジュエリーでは普通使用しないような工業機械類を使う事で今まで見たことのない、歴史の特異点になれるようなジュエリーに挑戦しています。

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私はもともとコンテンポラリージュエリーの作家として、自己表現を追求してきました。でもKOHKOHでは「誰に届けるか」を意識しながらデザインしています。コマーシャルジュエリーとコンテンポラリージュエリーの間にはまだ大きな隔たりがありますが、その橋渡しを少しずつ進めていけたら、という思いが根底にあります。

JJ:
「歴史の特異点になるジュエリー」という響きはインパクトがありますね。

そういった意味では、宝石と真珠という“ふたつの光”が重なり合い、ひとつのピースとして成立させた「Lightシリーズ」は業界でも話題となった革新的なデザインの一つだと感じています。

人の手だけではなし得ない技術的な面にも、KOHKOHの強みが現れていると思いますが、どのように発想され、生まれたのでしょうか?

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小嶋:
宝石の上に真珠層が被さっているLightシリーズは、社内にCTスキャンの機械があるのでアイデアを思いつきました。このシリーズはルース(宝石)を一個ずつCTスキャンでデータ化し、ルースと全く同じサイズの核を制作し真珠化させています。

出来上がった真珠から核を抜くとルースの表面にピッタリ合う真珠層が完成します。こうして、宝石と宝石の色が響き合い新しい見え方がする、今までありそうで無かったジュエリーが生まれました。

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工業技術と手作業が可能にする繊細な表現

JJ:
KOHKOHのカメオも、手作業では到底たどりつけないような緻密なタッチに独自性を感じます。こちらにもやはり、キャステムの工業技術がふんだんに活かされているのでしょうか?

小嶋:
母体のキャステムは、先にもご紹介した通り金属部品の精密加工に長けた会社です。金属を切削する工業機械を用い、熟練の職人さんが加工することで、手作業では不可能なほど精密な造形や滑らかな面構成のカメオが誕生しています。

今、この技術を応用し、ラピスラズリなどの他の石を彫る試みも始め、ラピスラズリの上に真珠層を重ねた作品も生まれています。

また、一番新しいジュエリーに真珠を用いていないシリーズがあります。このシリーズではリングの主石の周りの石枠や石座の部分も全て宝石(水晶やラピスラズリなど)で仕立てました。こちらも金属加工用の機械で加工しているのですが、かなり加工が難しく失敗を繰り返して実現しました。

New Jewelry TOKYO 2024にて「BEST JEWELRY PRIZE」を受賞した作品


母貝を無駄にしない、美しさの再定義

JJ:
KOHKOHでは、真珠の母貝(パールの外側の貝殻)もジュエリーに活用されていますね。これまであまり注目されてこなかった“母貝”にも美しさを見出し、プロダクトへと昇華させている視点がとても新鮮です。

素材としてだけでなく、生命の循環や環境への配慮までもをジュエリーに込めたのは、どんな意識からでしょうか?

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小嶋:
真珠養殖に携わるまで、私にとって真珠はあくまで”素材”でした。ですが、この事業に携わるにつれ、真珠は”生き物”だということに改めて気づかされ、さらに真珠養殖の際にでる母貝の廃棄処理が社会課題になっていることを知りました。

この葛藤と向き合い導きだしたのが「我々が養殖する真珠については母貝を廃棄することなく大切にデザインし、美しいジュエリーに仕立てよう」という答えでした。

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母貝は部位によって厚みや光沢、質感が異なります。たとえば厚みのある部分はカメオに、薄く平らな部分はネックレスやピアスの素材に。部位ごとの特性を活かし、それぞれの役割を与えることで、新たな美しさを見出したいと考えています。

現在は、母貝の端材を粉状にして何を生み出せるかをテーマに試行錯誤しており、2025年の秋頃には新しいプロダクトをお披露目できるのではと思います。


海外へ─日本から発信する新しいジュエリー

JJ:
ここまでお話を伺っていると、ジュエリーを通して、さまざまな研究やチャレンジを続けているKOHKOHですが、ブランドとして今後どのような展開をされていくのか、少しお教えいただけますか?

小嶋:
KOHKOHとしては、ジュエリーという枠にとらわれず、立体や平面作品などより広い表現にも挑戦していきたいと考えています。アパレル領域だけでなくアートギャラリーや美術館でも展示できるブランドに育てるのが目標です。

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2025年5月には阪急梅田本店、8月には伊勢丹新宿店本館への出展、そして9月にはドイツ・ミュンヘンでのグループ展に出展予定です。また、10月には恵比寿「gallery deux poissons」で2度目の個展も控えております。

他にも、海外から展示のお話を幾つかいただいており、今後を楽しみにしています。

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技術と芸術のあいだで──ジュエリーに宿る“問い”と“光”

KOHKOHのジュエリーは、装飾品という枠を越えて、「問い」と「挑戦」から生まれる作品。

工業技術と真珠養殖という異なる分野の融合、素材と真摯に向き合う姿勢、そしてテクノロジーを駆使した新しい発想と表現。そこには、“ただ美しい”だけではない、思考と実験の跡が刻まれています。

ブランド名「KOHKOH」には、真珠が放つ“煌々とした光”への魅了と、「光を考える=光考(こうこう)」という想いが込められています。

KOHKOHは、現代だからこそ生まれ得る、新しいジュエリーのかたちを模索し、私たちに提示しているのです。

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KOHKOH LIMITED SHOP @ 阪急うめだ本店
日時:2025.5.28 sat. – 6.3 fri. 10:00-20:00
場所:阪急うめだ本店1階 イベントスペース2
住所:〒530-8350 大阪府大阪市北区角田町 8-7
TEL:06-6361-1381
URL:https://www.hankyu-dept.co.jp/honten/

KOHKOH LIMITED SHOP @ 伊勢丹新宿店
日時:2025.8.6 sat. – 8.12 fri. 10:00-20:00
場所:伊勢丹新宿店本館1階=プロモーションスペース
住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1
TEL:03-3352-1111(大代表)
URL:http://www.isetan.co.jp

interviewed on 2025.05


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