《マロッタ忍(talkative)× 越智康貴(DILIGENCE PARLOUR)》ロングインタビュー – 前編

デザイナー・マロッタ忍さんが手がけるジュエリーブランド《talkative(トーカティブ)》が10周年を迎え、旗艦店を表参道へ移転。リニューアルしたショップのオープニングイベントでは、この日のために作られた部数限定のビジュアルブックがお披露目となりました。

マロッタさんがビジュアル制作のためにタッグを組んだのは、かねてから親交があったという花屋《DILIGENCE PARLOUR(ディリジェンスパーラー)》のオーナーでフローリストの越智康貴さん。品格の中に“ひとさじのウィット”が込められた花とジュエリーのビジュアルはどうやって生まれたのか? その背景を尋ねると、お二人に共通する一つの価値観が見えてきました。

左:《talkative(トーカティブ)》デザイナーのマロッタ忍さん。右:《DILIGENCE PARLOUR(ディリジェンスパーラー)》のオーナーでフローリストの越智康貴さん。

 

二人にとってはじめてのコラボレーションが実現

マロッタ:今回のコラボレーションは私からのリクエスト。越智さんのお店に通ううちに、いつだったか、私が宝石を扱っているというお話をする機会が訪れました。その時「僕も石(宝石・天然石)が好きです」とおっしゃっていたことをずっと覚えていたことと、「花とジュエリー」には共通する美しさと対比する時の流れ方があると感じていて、いつかこのテーマについて触れたい!と思っていたことが、この度ご縁あって実現したんです。

越智:僕「理科」が好きなんです。だから石も、花や昆虫を見るのと同じ視点で面白いと感じていて、「宝石と花」はずっとやりたいと思っていたテーマでした。花も宝石も「美しい」とか「きれい」とか印象で形容されてそれ以上言及されることって日常ではほとんどないですよね。見れば見るほど不思議なのに。今回の撮影はマロッタさんから「自由な発想で表現してください」と託してもらえたので、まずは「じっくり見たい」という気持ちから、虫眼鏡を取り入れました。

ブランド10周年を記念したビジュアルブック。撮影はマロッタさんのご自宅で行われたそう。

マロッタ:今回撮影した一点ものの石たちの中には、すでにジュエリーに加工してお客様の元へ行った子たちもいます。

越智:ご自宅に「これは私の石なの」「二度と手に入らないの」っていうものが、1個2個じゃなく結構ありましたよね。花の場合はどんどん消費していくしかないので、半永久的っていうのも、大変そうだなって思いました。

マロッタ:石は朽ちないですからね(笑)。学生の頃から石を集めているので、引き出しには手付かずで眠っているものもたくさん。石に魅了されると思い入れも強くなってきて、この石にとってどのジュエリーにすることがベストなのか考えていると5年も6年も7年も…。留め方やデザインでずっと悩んでいるものもあって。何度も石を愛でて、ピンと来たものから順番にジュエリーにしてあげます。ジュエリーとして人の手に渡ってくれたら、身につけてくれることで展示することができる。歩きながら展示していただけるのだから、デッドストックになっている天然石たちも早くジュエリーに仕立ててあげたいですね。

 

「過程」を知るとますます面白い宝石の世界

越智:そういえば最近、趣味でパールについての本を読んでいます。真珠も奥が深い。自然鉱物とは違って、生き物による産物っていう。

マロッタ:真珠の母貝が、中に入ってきた核を異物だと思って巻いていくとパールが生成されます。この習性を活かして、入れる核によって、完成するパールの形を操作する方法もあって。確か中国の伝統技法と習ったのですが、お釈迦様の形の核を入れて、小さなパールになったお釈迦様を作ることもあるのだとか。トーカティブの「ミルキーウェイ」というコレクションもその手法で作られたパールです。

越智:星型のパールって、見て分かりはするけど、その過程を知るとますます不思議で面白い。

右:「ミルキーウェイ」コレクション星型パールのピアス。星型にカットしたわけではなく、貝が核を巻いていく習性を利用した技法で形を操作。そのため、絶妙なニュアンスの違いも楽しめます。左:シェルオパールのリング。

マロッタ:シェルオパールってご存知ですか? 地層の中で貝殻は化石になるのですが、化石が朽ちるとその貝の形の空洞ができるんですね。石膏と同じような状態になったその部分に、何万年もかけてオパールが流れ込むんです。ここには貝の成分ではなくて、貝があった場所で形作られたものがシェルオパール。これもずっと寝かしてしまっていたのですが、オープン記念に意を決して指輪に仕立てました。

越智:削ったわけではなくこの形で発掘されるんですね。すごい。あさり、いや、しじみくらいの大きさ。小さいけどじっくり見たい。ほらこうやって、宝石って小さいけど僕にとってはかなりじっくり見たいもので、だからやっぱり虫眼鏡なんですよね。

 

花とジュエリーを実寸大に近づけた理由

マロッタ:ビジュアルの話に戻ると、ここに掲載している宝石も花も人の手もほぼ実寸大なんです。これって実は、ジュエリーの撮影ではすごく珍しいことで。

越智:そうですね。例えば大きなダイヤモンドリングの背景にデコレーションとして花が登場するビジュアルはよく見ますよね。着地としてきれいだなって思ってもらえればそれでいいから同じことではあるんだけど、石が面白いから、花が面白いから、石と花を同じレベルで同じように見せることを今回は一番大切にしました。花って可憐で可愛いイメージがあるけれど、みんなが思っているより大きいんですよ。小さい宝石と同じサイズ感でじっくり見ることってなかなかないから、それで、人の興味が浮き上がったらいいなと。

マロッタ:「じっくり見てもらう」ことは私も常々考えていることなんです。ディリジェンスパーラーで越智さんはお花をクリアバッグに入れて提供されていますよね。従来のお花屋さんのように銀紙で覆わなのには、根までよく見てほしいという理由があると聞きました。そこに、すごく共感するものがあって。トーカティブの一点物の指輪を仕立てる時に用いる「ヌードセッティング」がまさにそれ。ヌードセッティングも、石をよく見てほしいという想いからなんです。そんな、自分が日頃から提案したいと思っていることと共通点がある気がしたのと、越智さんのお店に漂う理科好きな空気が、お声かけしたきっかけのひとつですね。

トーカティブがこだわる「ヌードセッティング」。リングにするためには石を地金で覆う必要があるのですが、腕を絞らず極力ふさがないようガードル部分のみを留めるセッティング。石が光に触れる箇所が増え、指にはめると石のカラーが指もとに落ち投影されて美しい。腕が絞られていない分、つけた際にポケットやバッグに手を入れても引っかかりにくいという実用的な利点も。

 

talkative(トーカティブ)》デザイナーのマロッタ忍さんと、《DILIGENCE PARLOUR(ディリジェンスパーラー)》のオーナーでフローリストの越智康貴さんの希少なコラボレーションのきっかけと、交わり合う理科的美的センスについて掘り下げた前編。後編は、お二人の「石」と「花」という嗜好品への想いや、デザイナーとして大切にしている視点に迫ります。


 

PROFILE

《マロッタ忍(まろった しのぶ)》 – talkative デザイナー


グラフィックデザインの第一線を経験後、ジュエリーデザイン及び制作を学び大手企業でジュエリーデザインの企画に携わる。JJAジュエリーデザインアワード新人賞、伊丹クラフト展審査委員賞を受賞するなど、グラフィカルでウイットの効いたデザインが注目を集めている。日本の量産向けのジュエリーと海外で見るアートジュエリーの間のような、カジュアルに身に着けられるファインジュエリーブランドがまだまだなかった2008年、グラフィックを学んでいた感性を活かして、この隙間のカテゴリーになれるようなジュエリーブランドをつくりたいと《talkative(トーカティブ)》を設立。
talkative HP | http://www.talkative-jwl.jp/

《越智康貴(おち やすたか)》 – フローリスト


フラワーショップ「ディリジェンスパーラー」オーナー、株式会社ヨーロッパ代表。フローリストとして活動する傍ら、多方面の媒体で執筆活動も行なっている。
DILIGENCE PARLOUR HP | http://diligenceparlour.jp/


 

interviewed by Yukiko Shinmura
photo by Sato Koto




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