110周年を迎える諏訪貿易三代目会長《諏訪恭一》インタビュー

宝石の世界的権威として知られるGIA(米国宝石学会)G.G.(宝石鑑別士)。その資格を1965年、日本人で初めて取得した諏訪恭一さん。今年110周年を迎える諏訪貿易の三代目であり、会長を務める諏訪さんは、ヨーロッパや南米、北米など330回を超える海外出張を通して宝石の知識を「現場で」磨き続けています。諏訪さんが思う「ジュエリーとは?」「ジュエリーデザインとは?」。今、ジュエリーには何が求められているのか伺いました。

東京・平河町に建つ諏訪貿易ビルに昨秋開業したJAAG(ジュエリーアドバイザーアンドギャラリー)オフィスにて。諏訪恭一さんの新しいチャレンジが始まっています。


Ⅰ 宝石の源流をたどってコロンビアへ

今から50年前、GIAに通っていた頃はアメリカ全盛の時代です。世界のダイヤモンドの8割はアメリカが買っていました。半年間勉強して、卒業間際に「せっかくだから一度ニューヨークで研修してみたい」と恩師にお願いしたら、世界3指に入るダイヤモンドカッターを紹介してくれました。ここのオフィスが5番街47丁目角に建つビルの17階。窓から街を見下ろし「いつかニューヨーク5番街で自分のジュエリーを売るぞ」と誓いました。

帰国して父(二代目・喜久男さん)と会社を一緒にやるようになりましたが、当時の日本は輸入が自由化されたばかり。まだ国内ではいい宝石が流通していなくて、ジュエリーは石さえ良ければいい、指輪になって着けられすればいいという時代でした。香港で宝石やジュエリーを買い付けて日本で売るとけっこういい商売になりましたが、香港は二次流通地でしょう?もっと元に行きたい、採掘地の南米から直接仕入れたいと、スペイン語を集中特訓して宝石用語だけはマスターし、コロンビアへ渡りました。

現地で宝石のいいものを調達して、日本のメーカーさんへお売りするという仕事を始めましたら、とても重宝していただきましてね。社名を諏訪商店から変えたのもこの頃です。私は諏訪貿易にしたいけれど、父は株式会社諏訪商店がいいと譲らない。最終的には祖母が仲裁に入り「これから国際社会になるから貿易のほうがいい」と。先見の明があったんですねえ、祖母は。

JAAGのショーケースにおさめられた、ジュエリーの品質をEXCELLENTからPOORまで5段階で分けたディスプレイ。


Ⅱ ブランドの時代到来、SUWAジュエリーの誕生

そのうち、宝石の現地買い付けに日本の銀行や商社が参入するようになりました。コロンビアのエメラルドの質も随分と落ちてきたと感じていたので、ルースの輸入と平行して、ジュエリーメーカーとしてOEM製品をつくって供給するビジネスも始めました。

1980年代に入ると、アメリカがだんだん「ブランドの時代」に変わってきたのを感じました。ジュエリーがブランドで語られるようになったんですね。ならばSUWAの名前でジュエリーをアメリカで売りたい。ニューヨークでインターンをしていた頃に描いた、ニューヨークでジュエリーを売りたいという夢をようやく叶える時がきたと。アメリカの宝石業界の方にご紹介いただき「リテールジュエラーアメリカショー」というジュエリービジネスの展示会に出展しました。日本で出展したのはうちとミキモトさんだけ。これをきっかけに、SUWAブランドのジュエリーを扱ってくださるアメリカの小売店さんが少しずつ増えてきました。

当時はカーナビがないので、地図を片手に車でぐるぐると迷いながらアメリカの小売店さんを回りましたねえ。ニューイングランド地方、ボストン、ポートランドなどよく行きました。10年くらいルート周りをしたかな。念願のニューヨークでもSUWAのジュエリーを置いてくれる小売店さんができました。今でもアメリカでは35店舗がSUWAブランドのジュエリーを扱ってくださっています。

SUWAジュエリーの人気商品の1つ、マーキースカットダイヤモンドのシリーズ。ダイヤモンドは原石の歩留まりを最大限に考えてカットされるため、質が高くて美しいシェイプのマーキースカットダイヤモンドは貴重。下はJAAG(下項参照)にディスプレされているオレンジサファイヤのネックレス。


Ⅲ 宝石の美しさ、品質、価値を明確にしたい

1993年、『宝石‐品質の見分け方と価値の判断のために』(世界文化社)を刊行しました。昔から宝石の種類を解説する本は世界中にたくさんありますが、宝石の「美しさ、品質、価値」についてまとめた本はありません。こうした情報不足もあるのでしょう、「宝石の品質と価値は分かりにくい」といった声はあちこちで私も耳にしていました。

そこで、
「その宝石の美しさはどこを見たらいいのか」 
「宝石の品質はどうやって判定するのか」
「品質は市場の価値とどのように対応しているのか」
といったことをできる限り初心者にも分かるように、主要な24種の宝石について説明したのがこの本です。

消費者が安心して宝石を買うための手助けになってくれたらという願いと、もう一つ、ジュエリービジネスの信頼性のためにという気持ちもありました。ちょうどこの少し前からアフリカで、少し青みがかった淡い赤色のルビーが採れ始め、「ピンクサファイヤ」と呼ばれていました。鑑別機関によって、あるところではルビーと言われて、あるところではピンクサファイヤと言われたと業界で問題になったのです。ルビーとピンクサファイヤでは、売り値が全然変わってしまいますから。

そこで、カラーストーンの世界的な会議で議論した結果、「赤系統のコランダムは全てルビーと呼ぼう」と決まりました。日本代表でわたしも会議に参加していたので、決定を日本に持ち帰ってきたのですが、なかなか浸透しない。会議の決定というものは批准に限界があるな、ならば本に記しておこう。その時にルールとして成立しなくても、残しておけば時間をかけて伝わる事があるかもしれないと。

本にできたのは良かったのですが、内容に非常にこだわって作ったので1冊1万円もする本になってしまった。困ったな、これは売れないだろうと心配しましたが、予想に反して増刷を重ねて今では16刷です。続編の『宝石2』『宝石3』も刊行しました。業界の方も消費者も、宝石の品質のことに興味があったのですね。

諏訪さんの著作『宝石』の改訂版『宝石1』と、続編『宝石2 ダイヤモンドとカラーストーンの価値の決まり方』『宝石3 ジュエリー-その品質と価値の見方』(すべて世界文化社刊行)。宝石の個性を率直に伝える写真と、分かりやすい解説が凝縮されたシリーズ。英訳版が海外でも刊行されています。


Ⅳ ジュエリーの善し悪し

今、ジュエリーを手にした人が、自分でジュエリーの品質判定ができるように、見方のポイントをまとめた本を執筆中です。ジュエリーの品質は宝石のサイズや姿といった“宝石の品質”のほかに、宝石の組合わせ、石留めの選択などから総合的に判定しなくてはなりません。「仕上げの丁寧さ」も大切です。家を建てる時に設計はいいけれど、仕立てと仕上げが悪かったら台無しでしょう?

品質判定をする時は、ご自分の「直感」もかなり信用していいですよ。まず直感で見て、裏側からも見ると、そのジュエリーがどんな意図で作られたか、かなりの部分が分かるものです。良いジュエリーは裏側もきれいに作られています。

こういったことがジュエリーの見方には大事なのだと知ってさえいれば、みなさん数を見ていくうちに試行錯誤して、ご自分なりにジュエリーの善し悪しが分かるようになっていくと思います。ジュエリーを買われる方は、ぜひこういったポイントを意識して選んでいただきたい。ジュエリーを作る若いデザイナーの方にも、こういった点がジュエリーの善し悪しを決めるのだと意識して作品をつくってほしい。消費者と作り手と双方の意識を高めることが、ジュエリーの魅力的な未来を切り拓くはずです。

JAAGにディスプレイされた最高ランク(EXCELLENT)のブローチ。小粒のダイヤモンドがバランス良く配され、大振りながらも軽やかに仕上がっている。

Ⅴ ジュエリーは大自然と人間の共同作業

宝石は大自然からの預かり物です。地中の深いところで高温高圧をかけて結晶し、火山活動や地殻変動といった偶然によってわれわれの目に触れるところまで上がってきました。人がつくれないものだからこそ、宝石は価値があります。

その価値のあるものをジュエリーに仕立てるのですから、宝石に対する尊敬というか、真摯な気持ちで作っています。デザイナーは宝石の美しさを引き出すことが一番大事。せっかく作るのだったら、宝石をムダにしたらもったいないですよね。

宝飾の世界では、宝石のサイズはとても大事で、サイズを無視して宝石は語れません。ネックレスがいいか、指輪がいいか、ソリテール(単一の石)がいいのかなど、サイズによって適したスタイルがあります。姿も大事です。厚みやカボションの高さ、モザイク模様が上から見た時に美しく出ているかなどは宝石の美しさの鍵です。

「石留め」にもとても気を遣います。石留めは宝石と金属とを繋げる唯一の接点で、どの留め方を採用するかは思案のしどころ。昔は「宝石は金庫にしまっておくもの」という方がたくさんいらっしゃいましたが、今の女性にとってジュエリーは「身に着けて楽しむもの」。だからなおさら、石留めの太さがその宝石に合っているか、着けている間に引っかからないように仕上がっているかなど仕立てが大事になってきます。宝石は大自然しか作れないけれど、「仕立て」の部分は人間にしかできません。たいへんな共同作業をしているのです。

ダイヤモンドの原石や研磨の詳細が分かりやすく解説された『ダイヤモンド-原石から装身具へ』(アンドリュー・コクソン氏と共著、世界文化社)。ダイヤモンドやジュエリーの写真は誌面から輝きが発散するかのような美しさ。下のリングはダイヤモンドの正八面体の結晶をカットせずにセットした、15世紀に作られたダイヤモンド指輪のレプリカ。


Ⅵ 人から人へ受け継がれていく「プレオウンドジュエリー」

私たちは2000年から、お持ちのジュエリーの価値をきちんと見極め、「まだ着けられますよ」「市場ではこのくらいで取引されていますよ」「主石はいいですが仕立てが悪いので、作り直すといいですよ」といったアドバイスをする事業を始めています。何でもかんでもリフォームしようでは、来た患者を全員手術する医者みたいなもの。そうではなくて、お客様にお持ちのジュエリーのいろいろな可能性をきちんとアドバイスさせていただく。昨秋からこの事業をJAAG(株式会社ジュエリーアドバイザーアンドギャラリー)に引き継ぎ、ギャラリーも開設しました。

ジュエリーは基本的には受け継がれていくものです。きちんと作られたジュエリーは、一時期どなたかが持っていて、また別の誰かが所有することもあります。この流れの中のジュエリーを「Pre-Owned Jewelry(プレオウンドジュエリー)」と呼びたいなと思っています。じつは元ネタがあって、ポルシェの中古車センターが「プレオウンドカー」と看板を出しているのを見て、いいなと閃いたんです。「これはプレオウンドのジュエリーですよ」なんて言われると、どなたかが大切にしてきたものを、今度は自分が受け継ぐといった気持ちになったらいいなと思って、そんな提案もギャラリーではしています。

JAAGにディスプレイされたカラーストーンのクォリティスケール(品質の物差し)。宝石の美しさと濃淡を段階をマス目でスケール化しています。ルビー、エメラルド、サファイアなど主なカラーストーンのスケールが常備されています。


Ⅶ ジュエリーデザイナーが開く、ジュエリーの未来

近ごろは若いジュエリーのクリエイターさんがたくさん出てきて、日本のジュエリー界もずいぶん様変わりしました。New Jewelry(ニュージュエリー)の「自分でつくって自分で売る」というスタイルも面白いと思っています。コツコツと手作りしているようなクリエイターさんが将来は自分のアトリエを持って、お客さんをお迎えして、自分でご説明しながら販売する--そんなお店が日本にたくさんできたら楽しいですよね。文化も育つ。

永い間、いわゆる宝石のクラシカルなジュエリーが私の専門分野で、コンテンポラリージュエリーというジャンルは関係がないと思っていましたが、この間ふと気が付きました。1970年代、ブラジルに買い付けに通っている時に求めて、気に入ってずっと嵌めていたグリーントルマリンのリング、あれは当時のコンテンポラリージュエリーだったんだなと。ブラジルの造園アーティストのBURLE MARX(ブール・マルクス)のもの。宝石を生かしたジュエリーは、ジャンルを問わず良さがあるということですね。ぜひ、みなさんにももっとジュエリーを身軽に気軽に、買って着けていただきたいです。


PROFILE -《 諏訪恭一(すわ やすかず)》

諏訪貿易株式会社会長。慶應義塾大学経済学部卒業。1965年、米国宝石学会(GIA)宝石鑑別士(G.G.)資格を日本人第一号として取得。NHK学園ジュエリー講座講師。北米、南米、欧州、東南アジアなどへの海外出張は330回にも及び、世界各国の宝石および宝飾関連業者とのビジネスを展開。精度の高い情報収集活動および研究を行っている。
公式HP | http://www.suwagem.com/jp/


参考

JAAG HP | https://www.jaag.jp/


interviewed by Atsuko Miyasaka
photo by Sato Koto



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