引き算した先にある抽象性とパーソナリティ《 Hirotaka(ヒロタカ)》インタビュー

国内外で様々な経験を積んだ後、ジュエリーの世界に飛び込んだデザイナーの井上寛崇さん。2010年にニューヨークで自身の名であるHirotaka(ヒロタカ)でブランドデビューをすると、「今までに見たことがないジュエリー」と評され、全米へと人気が広がっていきました。ついに2016年に初の直営店が東京・表参道ヒルズにオープン。注目せずにいられない、その魅力とは。井上さんのデザインマインドに迫ってみます。

表参道ヒルズの直営店でディスプレーの手直しをするデザイナーの井上さん。動物の角や植物の殻などを合わせてジュエリーを並べるセンスはさすが。


紆余曲折あってたどり着いたジュエリーの世界

「自分は最初からジュエリーの世界にいたわけではありません。学生時代はロサンゼルスの大学で政治を勉強し、卒業後はIT企業で働いていました。今から20年近く前の話ですから、あの当時のIT企業は本当にテクノロジーの最先端で社内でも確実に理解していた人はほんのわずかだったと思います。自分は残念ながら理解できないほうで、はがゆい思いをしているうちにだんだんとフラストレーションが溜まってきて……。

全てを失う覚悟で会社を辞めてパリに渡り、自分が本当にやりたいことを模索していたところ、友人がジュエリーのコレクターを紹介してくれたんですね。実は子どもの頃から自分は大のジュエリー好き。能や謡をたしなむ母はファッションが好きな人でジュエリーも集めていたのでその影響かもしれません。そのコレクターの方から『そんなにジュエリーが好きなら日本に帰りなさい。良い人を紹介するから』と言われてお会いした人がジュエリーメーカーの社長でした。

幸いにもそこで働くことを勧められましたが、学校に入って勉強したほうがいいのでは?と尋ねると、『会社で毎日何千カラットの石を見ながら実践で学ぶほうが君には合っているよ』と言われて入社を決意。いきなりデザイン室に配属されて緊張しましたが、ジュエリーオタクですので(笑)、独学で習得した知識が役立ちました。自分がやりたいことはこれだ!と気づき嬉しくなりましたね。でも後にその会社を離れることになります。何千万円、何百万円というハイジュエリーを扱っていましたが、いくら資金があっても自分はビジネスができないと悟ってしまったからです。天職だと思ったジュエリーの世界、本当に自分がしたいことは何だろうと悩みに悩んだ末、たどり着いたのがファッションジュエリーでした」

NYでブランド名が知れ渡るきっかけとなったFloatingとArrowという名のピアス。縦長の楕円型がFloating、パールやダイヤモンドから伸びた矢のような形がArrow。長すぎるなどバイヤーに言われながらも気がつけばベストセラー。最近は18金や色石を用いたタイプも登場しています。


夢を叶えるならニューヨークへ

「ハイジュエリーは宝石そのものの価値も判断基準の大きな割合を占めます。比べてファッションジュエリーは価値も価格もうんと下がりますが、ブランドの世界観や身につける人のストーリーなど、そういった”スタイル”を提案するところが最大の魅力だと思います。

自分はそこに楽しさを強く感じました。これこそが自分の本当にやりたいことだと。やるからには世界を舞台にしようと思い、拠点に置いたのがニューヨーク。夢や希望を与えるところ、ここで勝負しないと意味がありません。でも現実は厳しかった。2010年、当時のマーケットは大ぶりのコスチュームジュエリーが主流で、いろんなバイヤーから『見えない、小さすぎる』とか『(Arrowのピアスを見て)長すぎる』とか、とにかくToo(過ぎる)をよく耳にしましたね。

そこでトランクショーで発表したところ、スタイリストやモデルから『こういうのが欲しかった!』と喜んでくれてホッと一安心。それからファッション誌で紹介されるようになり、ハリウッドスターが自分たちのショールームに直接買いにいらしてくれたりと、ニューヨークでの成功に一歩ずつ近づいている感じでドキドキしていました。あの頃、Jay-ZとAlicia Keysの『Empire State of Mind』という曲が大ブレイク。良いところも悪いところもすべてがニューヨークの魅力でみんなにパワーを与えてくれるといった歌詞にすごく共感を覚えて……。

バーニーズニューヨークのバイヤーから『少しでも見たことのあるデザインだったら買わない。でも、あなたのジュエリーは今までに見たことがないから買う』と言われた時は本当にうれしかったです」

井上さんのスケッチを基につくられたflamingo Hook Arrowという名のピアス。何かの花の雄しべのようにも見えます。リングは一列に並んだダイヤモンドで光に照らされた一筋のクモの糸を表現。その名もGossamer。ストーリー性を秘めたミニマルなデザインが魅力です。


引き算から生まれるデザイン

「デザインするうえで特別な女性像が浮かぶこともなく、ハートや星、LOVEといったジュエリーでおなじみのモチーフを使うこともありません。やはり子供の頃の経験が大きかったかもしれません。宝石好きが転じて鉱物に興味を持ち始め、次第に自然の生態に注目するようになっていき、動物学者になりたかった時期もありました。全体よりもディテールが気になります。爪、目元、脚とか。昆虫のお腹や植物の蔓とか。風景も一部分を切り取ったりして。

そういった視点でフォーカスしたディテールを限界ギリギリまで抽象度を上げて完成したものが、Hirotakaのジュエリーなんです。抽象度を上げる、つまり引き算することがデザインする上で何よりも大事。だから完成したジュエリーはすごくミニマルなスタイルですので何でも捉えられるんです。

フラミンゴからインスパアされたピアスは言われればそうですが、何かの花の雄しべにも見えますよね。蜘蛛の巣をイメージしたシリーズも光線のようですし、マンハッタンの夜景を表現したシリーズもキラキラしたテトリスみたいですよね。想像力がふくらむジュエリー。でも引き算して残す部分にはどこかエッジを効かせたくて。すごく小さくしたり長くしたり。バイヤーによく指摘されたTooがそれにあたるのかもしれません」

有機的なフォルムのFloating Hoop Earringは藤の花の蔓をイメージして。Manta Spine Ringはその名の通りエイのマンタから、Bow Earringのシリーズも弓から着想を得てつくられたもの。でもどれも他の動植物や何かに捉えられそうです。「いつも自然界のエネルギーから刺激を受けています」


ミニマルな中にある日本人らしさ

「海外のバイヤーからは日本人だから日本らしいジュエリーをつくらないの?と聞かれますが、自分の中では引き算のデザインこそ日本らしいと思っているのですが……。古くから伝わる日本の芸能や意匠はどれも引き算された美学が宿っているような。ミニマルなものは普遍的なものでもあります。家紋や着物の柄などがそうですよね。ただ日本人だから日本を意識するとか、私のデザインはこれですといった主張はしたくありません。

スタイルを提案するブランドですから、身につける人の魅力をぐっと引き出せるような、何十年経っても飽きずにその人のワードローブにあるような、そんなパーソナルでいてエターナルな存在でありたい。そういう思いと自然のディテールが自分の頭の中には常にありますね。

クオリティも常に考えています。ファッションジュエリーとはいえ、クオリティは高いところをキープしなければいけません。型数は300以上ありますが全て職人による手仕事です。中には一人にしかできなくて1日数個しかつくれないものも。職人を見ていてもやはり日本人は器用で丁寧で真面目ですね。彼らがいないとHirotakaの高いクオリティは維持できません」

”水の中のような明るい夜”をコンセプトにしてつくられた直営店は全ての什器が特注。「光と影、虫のお腹、波紋など自分の好きなものを形にすると既製品では難しいことが判明。でも建築家の方のおかげで納得のいく空間になりました」フルコレクションがそろうほかショップ限定品も展開。空間だけでなくラインナップも特別です。


直営店がオープンして感じること

「2016年3月18日、偶然にも自分の誕生日にブランド初の直営店が表参道ヒルズにオープンしました。ありがたいことに一度手にしたお客様はリピーターになってくれることが多いです。重ね付けするとよりパーソナルなスタイルが楽しめるからかもしれません。お客様それぞれが全く違うHirotakaの捉え方をするのですごく勉強になります。

こうして直営店ができたことによって新たな気持ちが芽生えました。偏見のない優しい気持ちがデザインでも何においても大事なんだと。すると国際交流や自然環境など世界共通の問題が自ずとつながってくるのですが、自分たちのジュエリーを通してそういうメッセージを少しでも発信できるように努めているところです。

それといつかミュージアムのような空間の店を開きたいですね。夢に出てきたありそうでない芸術品みたいなジュエリーを並べたりして。場所はアクセスしやすいところ。東京? ニューヨーク? でもまずは邁進あるのみ。思いを込めてジュエリーをつくり続けていきます」

直営店には井上さんの大好きなボルネオの自然を守るチャリティーコーナーがあります。「自然を失うとデザインも私たち人間も失ってしまいます。店からできることを少しずつ始めていきたいと思っているところです」


PROFILE -《 Hirotaka(ヒロタカ)》


2010年、デザイナーの井上寛崇さんによってニューヨークのSOHOでスタートする。現地の雑誌編集者やスタリスト、モデルの間で人気が広まり、今では老舗百貨店などを中心に全米で展開中。日本も2016年3月に東京・表参道ヒルズにオープンした初の直営店をはじめ全国のセレクトショップで取り扱っている。
公式HP | http://hiro-taka.com


interviewed by Yoko Yagi
photo by Tohru Yuasa



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