エモーショナルなジュエリー Vol.5 「ビビ・ヴァン・デル・ヴェルデン」

Starry Night Galaxy Ring Big


 

彫刻技術と独自の感性が光る、ユニークなジュエリー

美の基準というのは個人によって異なるもので、時代や流行によっても移ろうものだが、優れたデザイナーというのは往々にして確固たる独自の美意識を持っており、今回紹介するビビ・ヴァン・デル・ヴェルデンもその例に漏れない。今回はビビ本人とのやり取りも交えながら彼女の世界観をお伝えしたい。

オランダ人のビビ・ヴァン・デル・ヴェルデンはニューヨーク出身で、イギリスとオランダで幼少期を過ごした。フィレンツェ、アムステルダム、ハーグの美大で彫刻を学んだ後、2006年に自身のジュエリーブランドを立ち上げた。長年彫刻を学んだだけあって、「Large Cloud Ring」のスモーキークォーツのカービングや、「Mermaid Tail Bangle」のディテールには、彼女の巧緻な彫刻技術を見て取れる。ずっと彫刻を学んでいた彼女が、ジュエリーを作り始めるに至った経緯を聞いてみた。

「私の母は彫刻家だから、小さい頃からいつも母のスタジオでお手伝いをしていたの。だから自分もきっと将来は彫刻に携わるのだろうと思っていたわ。私にとってジュエリーは小さな彫刻と同じで、技術的にも似ている部分が多いから、ジュエリーと彫刻はサイズが違うだけといった認識ね。学生の頃から少しずつジュエリーを作るようになって、卒業後はファッションウィークに出展するようになったの。はじめはとても大きな作品を作っていて、ジュエリーというよりも体に装着するボディ・スカルプチャーという感じだったわね。ある年はガラスを使って、その翌年は剥製を使うといったように、毎回異なる素材やテクニックを試していたわ。その内に本格的にジュエリーを作るようになったのよ。」

left:Large Cloud Ring / right:Mermaid Tail Bangle


 
当初はマーケットなどで集めたパーツや、森の中や道端で見つけたオブジェクトを組み合わせてジュエリーを作っていたそうだが、現在でもユニークな素材使いは変わっていない。4万年前のマンモスの牙を彫って作られた「Mammoth Galaxy Earrings」や、ビビが最もお気に入りの作品だという「Scarab Ring Fly」には本物のスカラベの羽を使用するなど、他ジュエラーでは見かけない素材が活かされている。これは非常にマルチ・カルチュラルなバックグラウンドを持つビビならではの特徴かもしれない。

「多様な文化に触れる事は、私にとっていつも大きな着想源となってきたわ。ジュエリーに使用する素材は他の国を訪れた時に調達する事が多くて、その国ならではの特色を持った素材に惹かれるの。自分が慣れ親しんだ環境を離れて他文化に興味を持つ事は、私の創作活動においてとても重要だと思う。視点を変えてみることで得るアイデアや、研ぎ澄まされる感覚があるの。」

left:Mammoth Galaxy Earrings / right:Scarab Ring Fly


 

不完全な要素で表現する、時間の経過とパーソナルな感情

素材使いも独特だが、ビビの作品にはアンティークのような雰囲気とポップなおとぎ話のような愛らしさが共存しており、一貫した不思議な魅力を放っている。ビビが考える美の定義はどのようなものなのか。作品を作る上でのこだわりや、ジュエリーに対する思いについて詳しく話してくれた。

「石でも真珠でも、私は何かしら不完全な要素を持った素材が好きね。私の作品には幼少期の思い出や憧憬が詰まっている事が多くて、メッセージやストーリーを込めてデザインするのだけど、不完全な要素を持つ素材は、こういった文脈に当てはめた時に説得力が出るのよ。あと、見た目をギラギラさせ過ぎないようにしているわ。ダイヤモンドは好きだけど、光らせ過ぎるのは好きじゃないの。大きなダイヤモンドを使用する時には、地金を燻して古い感じを出したり、何千年も前から存在しているように見える有機的なバロックパールを並べたりして、そこには歴史があるように感じさせるの。ストーリーを伝える上で、時間の経過を感じさせる事はとても大切だから。」

left:Big Galaxy Opal Ring / right:Man in Shell Earrings


 
「ジュエリーはただの装飾品ではなくて、人生そのものと繋がっていると思うの。結婚する時とか、人生の大きな分岐点において購入するでしょう。パーソナルな感情と深く結びつくものだから、大量生産されている高級ジュエリーには賛同できない。コミッションで一点物を作る機会が多いのだけど、デザインする時はどうすればそのクライアントにとってパーソナルに感じられるかを真剣に考えるの。それから、ジュエリーには人を変える力があると思う。この仕事をする上で大きな喜びを得るのは、自分にピッタリなジュエリーを身に付けた人がたちまち変わる瞬間ね。姿勢も変わって、目が輝いて、自信に満ち溢れたようになるの。あの人にはこのジュエリーがピッタリなんじゃないかって考えを巡らすのは、私の趣味になっているわ。」

現在ではオランダ、スイス、フランス、タイの四カ国にスタジオを構えている他、世界中からセレクトしたジュエリーを販売するECサイト「AUVENTURE」を成功させるなど、活動の幅を広げているビビ。今後は他のジュエラーとのコラボレーションや、初となるメンズコレクションを作る事にも挑戦してみたいそう。精力的な活動に一層磨きがかかりそうだ。


 

画像/資料提供

Bibi van der Velden | https://bibivandervelden.com

Mika Murai
Mika Murai
村井 美香 Mika Murai
1986年生まれ。大阪府出身。15歳の時に単身渡英。ケント州の高校をオールAの成績で修了した後、ロンドンの名門美術大学Central Saint Martins College of Art and Designに進学。その後、Kingston大学大学院に進み、首席で卒業。英国王室御用達のジュエリーブランドなど、様々な有名ブランドでデザイナーとして経験を積む。帰国後は国内の某ラグジュアリージュエリーブランドで勤めた後に独立。ジュエリーデザイナー 、コラムニストとして活動中。

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